第五話「玄関」
「それではお先に失礼します」
「ええ、気を付けて帰ってね」
アヤカさんに挨拶をして、部室を後にした。アヤカさんは何か手掛かりがないか、姉のノートを読んでいた。たぶんあれ以上のことは分からない気がした。レイカ先生がノートを見て何も言わなかったのは、レイカ先生がノートの存在を知っていて、先の部分を破ったのもレイカ先生なのかも知れないと。ツボミは思った。
「帰って明日の準備をしないと」
一人呟いてツボミは玄関へと急いだ。
「藤代さん……」
玄関でうち履きから外履きに履き替えようとしていた所で、レイカ先生に呼び止められた。少し落ち着いたようで、いつものレイカ先生に戻っていた。
「少しいいかしら?」
「……。なんでしょうか?」
先ほどのレイカ先生の様子が脳裏によぎり、あまり今は話をしたくなかったけども先生を無視する訳にはいかないので少し話を聞くことにした。
「さっきはごめんなさい。脅かせてしまって」
「いえ、先生も怒鳴ることもあるんだなと思って。驚きましたけども」
「ごめんなさい。どうしてもサクラちゃんのことになると自分の感情をコントロールできなくなって」
ツボミはレイカ先生が姉のことを「サクラちゃん」と呼んでいたんだなと思い、少しほほえましくなった。同時にレイカ先生のことを前よりもちょっと身近に感じた。レイカ先生は人当たりは良かったが、少し人との距離を測っていて、あまり近づきすぎないようにしているような感じがするなとツボミは思っていた。
「先生は姉と親友だったそうですね」
「ええ……。アヤカに聞いたのね」
「アヤカさんのことは怒らないでください。ツボミが無理やり聞き出したようなものなので」
「分かっているわ。アヤカのやっていることもほとんど私のためみたいなものだし」
ツボミはこのままだとあのメモのことを話してしまいそうになりそうだったので、早く話を切り上げたかった。
「そ、それで話っていうのは」
「ごめんなさい。少し忠告しようかと思って、ツボミさんはサクラちゃんとは違うとは思うけども、決してお姉さんのことは探そうと思わないで。約束して」
「それはどういうことですか?」
「約束して」
そう言って先生は黙った。ツボミもこの場は同意するしかないなと思い。返事をした。
「安心したわ。いつもこの時期になるとまたあのことをしようとする人間がいるかも知れないと思って気が気じゃないのよ」
「どういう意味ですか? それは」
「話はこれで終わり、これだけは必ず守ってね」
「先生!」
そう言い残すと、レイカ先生は玄関から去っていった。