第四話「先生」
「ツボミ。昨日はどうしたの? 突然」
「いえ、大した用事じゃなかったです。勘違いしちゃって」
昨日のメモについてはアヤカさんには黙っていることにした。何が起きるかわからないのに他人を巻き込むわけにはいかない。
「?? まあいいわ。それよりも昨日の続きなんだけどね」
アヤカさんは昨日のノートを取り出すと話し始めようとした。どうやらツボミに話したかったことがまだあったらしい。ツボミは申し訳ない気持ちになった。
「こんにちは。アヤカさんかわいい後輩に変なことしてないでしょうね」
胸の大きなスタイルのいい女の人が入ってきた。この人が顧問というか監視役。アヤカさんの姉でもあるレイカ先生だ。元はここの生徒は今は臨時だが、正規の先生を目指しているらしい。
「何もしていないわよ。ねえ。ツボミ?」
「は、はい……。とってもよくしてもらってます」
そう言うとアヤカさんは先生に見えないようにノートを隠した。先生もそのしぐさには気が付いたようだが咎めるようなことはなかった。たぶんアヤカさん達にとっては日常なのだろう。
「そう? ならいいのだけれど」
「姉さ……先生。いつもこの時期になるとソワソワするの。やめてくれないかしら」
「何のこと?」
「ばればれなのよね。親友だったのか知らないけども、いつもこの時期になると妙にソワソワして落ち着かなるの」
レイカ先生の顔色が変わった。
「余計なことを言わないで! あなたに何が分かるっていうの!!」
いつものレイカ先生とまるで違う形相でアヤカさんを怒鳴った。
「私に分かるはずがないでしょう……。姉さんの後悔が」
「……サクラ」
一瞬、ツボミの方を見たかと思うと、部室から出て行った。ツボミは答えを求めるようにアスカさんのことを見た。
「まあ、どうせ分かることでしょうけども、ここの失踪した前の部長とレイカ先生は親友で、同じ部活仲間だったのよ。当時はしばらく大変だったわ。取り乱して……。今は大分落ち着いたようだけど」
「そ、そうなんですか」
驚いたが、少し納得した。ツボミを見る目が他の生徒を見る目と少し違っていたのだ。まるで、昔の親友に会ったいるような目で、少し、とういうか大分距離が近いのだ。ツボミに姉のサクラを重ねていたのかもしれない。ますますあのメモの話はできなくなった。ツボミはそう思った。