第7話 地味子の覚醒
あの騒動から二時間。あと二日しかないためスケジュールは、秒刻みで進んでいく。その中心にいるのは、鈴木と演劇部部長の高橋と月見がすっかり中心人物になっていた。演劇部の公演は、日本昔話で有名な『竹取物語』急遽そこに、二年B組の数人がエキストラとして出ることになったため、エキストラ班と裏方班に分かれて活動していた。だが、あたりは、日が伸びたとはいえ少しずつ暗くなっていき空は、オレンジと青のグラデーションになっていた。
「もうそろそろ下校時刻なので撤収します」
鈴木の声でみんな一斉に片付け始めた。その指揮をとっていたのは月見だった。
「その飾りは、上手にお願い。衣装は、演劇部の部室までお願い」
てきぱきと働く月見を見て、さっきまでの地味子と言われてた人とはまるで別人だった。
「どうしたの?立ち止まって」
智樹は、そういわれて隣を見ると、鈴木が立っていた。鈴木は、舞台上を眺めていた。「どうしたんだよ。急にきて」というと、鈴木は、笑った。
「別に何でもないよ。なんか、交流会成功するといいなって思って」
「成功するんやなくて成功させるんです」
といきなり月見が入ってきた。幸人が言うには物静かだと聞いていたが素顔としてはおしゃべりなんだと智樹は、悟った。
「月見さん。この一日で変わったと思う。どうしてそんなに変われたの」
鈴木は、核心を聞いた。
「変わったんちゃいます。もともとうちはおしゃべりで、でも関西弁は、東京じゃだめだって思ったらしゃべりづらくなって、こないなってしもうて。でも、本当に言いたいことは声になって出て…それが今日だっただけで」
「そうなんだ。今日は、ありがとう。ほんとに感謝してるよ。それに関西弁かわいいと思う」
鈴木にそう言われて、月見は顔を赤らめた。鈴木は、また後でと言いながら、体育館を後にしていった。
「ところで、あなたは鈴木さんと付き合ってるんじゃないですか?」
智樹は突然の質問に戸惑ったが、付き合っていないと月見に伝えると面白くなさそうに去って行った。そうこうしているうちに体育館の舞台上は撤収を終えていた。
「まだ、いたんだ」
鈴木は、バックを両手に抱えていた。
「そのバックって」
「あーこれ部室に置きっぱなしだったから香口君のかなと思って。違った?」
「それはどうも」
「もう帰るでしょ。今日は、無理言ってごめんね」
鈴木からごめんねという言葉が出るのは珍しい。
「ごめんねなんて珍しいな」
鈴木は驚いたように言った。
「私そんな悪い人だったっけ」
鈴木は、無邪気に笑った。もうすっかりあたりは暗く爽やかな風が吹き雨など降っていたなんてみじんも感じさせなかった。手に持った傘を持て余しながら下校する。鈴木との下校は二回目だが、会わない足音にこの前より暖かくなった空気を感じると季節は、時間は、動いていると感じられた。
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