第6話 リハーサル3
「あーあ、あの女子怒らすとめんどうなんだよな」
幸人は、頭を掻きながら言った。
「あの女子って、さっき出てってた人?」
「まあな。名前は、金森萌花。性格は、鈴木とは対極であまりやる気のない感じなんだが、なぜか人を寄せ付ける。多分、言いたいことがなんでも口に出して言えるからだと思うんだけどな」
幸人の声は、静まり返る体育館響いていた。
「お前の声聞こえてるぞ」と幸人に告げるとすぐに幸人は、口をつぐんだ。
「あの、聞いてほしいんだけど…。今からクラスの出し物を完成させるのは正直言って難しいと思う。だから、演劇部の足りないところのサポートに移ってくれないかな。みんなが今まで練習してきたのはもちろん知ってるし、交流会なんてって思う人がいるのも当然だけど、手を貸してください」
鈴木は精いっぱいの声を張り上げて舞台上にいる二年B組に向かって頭を下げた。智樹の近くにいた幸人は驚いた表情で鈴木を見ていた。
「もういいですよ。顔上げてください」
その声は、響いて体育館の中の重い空気は少し軽減されたように感じた。そして、舞台から降りて鈴木のまえにたった髪の毛を後ろに結び眼鏡をかけた小柄な女子が立っていた。
そして鈴木にもう一度同じ言葉をかけた。舞台上の女子等は、地味子が喋った。とひそひそ声で話していた。
「鈴木さんが頑張ってるのわかってます。だから、謝らんといてください。」
その声は、体育館中に広がる重い空気から一転、軽い空気へと変えていった。その空気に後押しされるようにクラスメイトも、関西弁で、そうやで、と後押しした。
「あの地味子がしゃべるとは」
隣にいた幸人はそうつぶやいた。智樹は気になって聞いた。
「地味子ってさっきから呼ばれてる女子は誰だ?」
「月見麻実っていうんだよ。気になったのか?まあそうだよな。地味とは言われてても隠せないかわいい顔立ち…前から目をつけてたがな」
「そのお前の話はどうでもいいから」と幸人に突っ込みを入れると幸人は、しょんぼりとした顔で続けた。
「中学からのクラスメイトだったんだが月見は、物静かで話したところを見た人はいないとうわさされるほどだったからみんなは地味子とある時からそう呼びだしたんだ。もちろん悪気があって呼んでるわけではないけど」
幸人の説明で、鈴木に話しかけた月見麻実のことはよくわかった。
鈴木のほうに目をやると、鈴木の隣には、麻実がいてその隣には二年B組のクラスメイト達が囲んでいた。
「それで鈴木さん。何をやればいいんだ?」
幸人が鈴木に遠くから尋ねた。鈴木は、とっくに顔をあげていたが一瞬顔を覆い言った。
「演劇部の公演の手伝いお願いします」
鈴木はそう言ってみんなを見た。すると、鈴木を応援する暖かい声が体育館を包み込んだ。