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第18話 夏祭り(4)
「ねえ、香口君あれ食べよう!」
さっきから、鈴木は目に映る食べ物を買い食いしながらどんどんお祭りの通りからは離れていく。
そして言い出せないでいた。離れていく意味が分からなく、ただ、後ろからついていくだけだ。
「その、なんで、遠ざかるんだ?」
「あ、気付いた?」
そしてぐっと智樹の腕を鈴木は引っ張りながら小走りで丘に登っていく。丘の上には人はまばらだった。
「ここが一番見えるんだよ」
「なにが?」
「鈍感だな~花火だよ!」
少し笑ってから、鈴木はベンチに座った。そこのベンチからは、町内を一望できた。特に、お祭り会場の照明はきらきらと周りよりも輝いていた。
「ねえ、もうそろそろだよ」
鈴木が耳元でささやくとタイミングを見計らったように花火は目の前で大きな花を咲かせた。その花火は、何色にも幾重にも重なっていく。
「ねえ、香口君……。いや、ともくん。もう、私たち終わりにしよう」
落とされた言葉は真っ黒で花火の陰に隠れるようだった。