第10話 予感
「そんな簡単に……」
智樹は言いかけて鈴木は、自分の唇の前で指で小さくバツを作った。
「ダメだって。そんなネガティブに言ったら。そんなこと言うとすぐ幸運逃げるよ!」
智樹は手を腰にしため息をつく。すかさず鈴木は少し智樹に睨んだ。
「だからダメだって、ため息は吸い込むのこうやって……」
そういうと鈴木は、肺いっぱいに空気を吸って息を止めた。苦しそうに洪水のように吐き出す。
ってね。と、どや顔でこちらを見るが吐き出した時をため息というのではないだろうか?という疑問は、口にしまっておくことにした。
「それで、どうするんだ?」
「考えはある!」
自信満々な鈴木には何か秘策があるようだった。
***
「ねえ。まりは、どうして……」
優子は、暗い部屋の中でドアにもたれかかっていた。その壁の向こう側にはまりがいる。それだけで、自分は一人じゃないと安心することができている。
もし……姉妹じゃなかったら?そんな質問を自分に問いかけて愚問だと思っている。
「優子?どうしたの?」
不思議のそうなまりの声が暗い部屋には染みこんできた。
「私、お姉ちゃんみたいになれない」
ぼそっと、つぶやいた言葉は自分に何回も波のように跳ね返ってきてはむなしくなっていく。
「だから!」
まりは声を荒らげ、いきなり部屋のドアを開けると、優子の細い手を強く握った。
「行こう!先輩たちのところに!」
暗い部屋には、廊下のオレンジ色の暖かい光が一筋、差し込み赤くはれた顔を薄っすらと照らして、まりに言われるがまま、部屋から半ば強引に連れ出されていく。熱くうっとうしい空気を私たちは今、切り裂いているようだった。