第2話 昔の思い出
「お前、ボランティア部入ったんだって?」
「どこでその情報を!っていうと思ったか。デマだそれは」
幸人はまた噂話を広めようとしていた。
「いーや、デマじゃない」
「うぉ!どうして鈴木がここにいるんだ」
「来週の打ち合わせしようと思って教室に来たんだけど、お取込み中だったみたいだから自然に溶け込もうと思って」
鈴木が教室に顔を出した。
「鈴木さんこんにちは。あの鈴木さんって彼氏いるんですか?」
「この人大丈夫?」
「ほっといていいと思うこいつに関わると不幸しか起こらない」
「了解です!」
「了解しないでよ。鈴木さん」
鈴木は、大笑いをしていた。
「それで話って」
「あーそれのことなんだけど今日部活ないけど集まれる?」
*
交流会が一か月後の土曜日。今日がもう水曜日だ。時間がない。
「やっと来た香口君」
「大山先輩。今日は寝てないんですね」
「今日はってことは毎日寝てるっていうのね」
「い、いや。そうじゃないです」
もう。と大山は顔を少し膨らませた。
「やっと全員そろった」
ガラッと準備室兼部室に来たのは、鈴木だった。
「ごめんなさい大山先輩遅れました」
「いや別にいいよ。あーちゃん生徒会書記だもんね」
鈴木は、ドアの前に置いといた小さな段ボールを抱えて、それを机に置くと中から紐と布とノリとお花紙をとりだして、準備室の机の上のペン立てからはさみとホチキスを取り出し並べた。
「先輩先輩。何をするんですか?」
驚いた様子で優子は言った。
「これはね、飾りつけなんだけど今からお花紙でお花を二百個作ってほしくてね。これから割り振りしたいと思います」
鈴木は、よいしょと言いながらプリントとノートパソコンをドアの後ろから持ってきて広げ始めた。
「これから割り振りするね。大山先輩と私は、ちらしポスター作り。まりと優子と香口君は装飾づくりね」
優子とまりはすぐさま席について黙々と作業を始めた。どうすればいいのか智樹が立ち尽くしていたが、まりが、智樹のシャツを引っ張ると席に座らせた。
「先輩先輩。どう呼べばいいんですか?」
「いや。別に何でもいいよ」
そういうと優子は、肩を組みながら考え込み始めた。
「そういえばどっちがお姉さんなんだ?」
それは、私です。と小さく手をあげてまりが答えた。
「あなたの呼び方決めました」
まりは、何々と優子に近づいた。それはですね。と咳払いをした優子は言った。
「オタク。でどうですか」
「は?いやオタクじゃないけど別に」
「いや。顔がオタクっぽくて。そのですね…」
それを近くで聞いていた鈴木は、顔面に笑みを浮かべていた。
「オタク。私ありだと思うよ」
「大山先輩まで…」
まあまあ。といいながら鈴木は、作業を進めようといって、みんな作業に戻った。
*
そうこうしているうちに辺りは次第に暗くなりまだ初夏というのに冷たい風が部室を通り抜ける。
「もう帰ろっか」
そういうと鈴木は片付け始めた。
「じゃあお先にね」
「はい、さようなら大山先輩」
そういうと大山先輩は、急いで帰って行った。
「オタク君。時間大丈夫?」
準備室の時計を見るともう七時を回っていた。
「別に、予定ないから大丈夫です。」
あっそう。と鈴木が言いながら鞄を持って部室を出た。その時には双子の姉妹は帰っていた。
「香口君。もう遅いし一緒に帰ろうか」
下駄箱で鈴木はそう言いながら靴を取り出ししゃがんだ。ああ。と智樹は返事をしながら靴を取り出し履いた。下駄箱には青白い月の明かりが差し込んでいた。
「今日は、お疲れ様」
鈴木がそういうと駅までまったりと歩いていく。
「ボランティア部って緩い部活だな」
まあね。と答えながら。続けていった。
「小学生の時もこんなことあったよね。なんか懐かしいなって」
こんなことあった覚えがない。
「私が転校してきた日覚えてる?」
智樹は、そういわれてもすごく鮮明には覚えてなかった。でも何となくは覚えている。
あの日は今日みたいに昼が熱く夜は涼しかった。五月の終わりに転校してくるなんてめずらしいかった。しかも、五年生でだ。もう五年生というと友達も確定していて転校生に立ち入る隙は与えないそんなクラスでも鈴木はものの半日でなじんでいた。そんな、鈴木を見ていて内心すごいと思った。けれどそんなに話したことがなかった。
「ほんとに覚えてなさそうだね」
うん。と智樹はうなずくと鈴木は言った。
「私のこと助けてくれたじゃん。転校した日の帰りに、みんな帰りは一緒に帰ってくれなくて…そんな時に香口君が一緒に帰ろうって声をかけてくれた。帰り道クラスのみんなのこととか前の学校のこととか聞いてくれてうれしかったな」
「そんなことあったっけ」
智樹は、我ながら少し恥ずかしかった。熱くなった顔を覚ますように冷たい風が流れていく住宅街の中を二人しかいないそんな気がした。駅に着くと彼女は反対側の電車に乗ろうとホームで別れるとホームの反対側にいつの間にか立っていた。
「香口君!明日も部活だからね」そういうと
電車に乗って帰って行った。僕らの頭上には、落っこちそうなぐらいの星が輝いていた。
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