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ようこそボランティア部へ  作者: 白石みのり
夏休みと夏祭り
13/33

第1話 言葉

窓からは、気持ちの良い風が流れる。


「智樹。何寝てんだよ」

幸人は、智樹の背中をポンと強くたたいた。むくっと起き上がると首を鳴らした。


「なんだよ」

「せっかくの昼休みなのに、外で食べないのか?」

「さては、食べる空いていなくてここに来たのか?」


幸人は、ごまかすように言葉を濁した。いつもこうだ、幸人は何かあったりするとこうやって昼を誘いに来る。


「そういえば、誰かに呼ばれていたような……」

「なんだよそんなあいまいな記憶」

もやもやした気持ちがなぜかそこにはある。霧がかかっているような。


「呼ばれているんなら、誰に呼ばれているというんだよ」

幸人はすんなり目の前の席に座り、椅子を回転させ机の上にお弁当を広げた。パックジュースを手渡すとにかっと笑う。


「確かこのパックジュース……」


パックジュースを睨みつけると幸人はきょとんとした顔でこちらを見た。


「どうしたんだ?いつも飲んでるだろ」

「いや、別に」

何かが引っかかっている。でもそれが何なのかよくわからなくてムズムズとする。


「今日は何月何日だ?」

幸人はいきなりの常識的な質問に戸惑った。


「今日は、黒板にも書いてあるように五月の……」

「五月!?」

幸人の声を遮り智樹の声は教室中に響いた。


「どうしたんだよ!?今日お前おかしいぞ」


「だってそんなはずじゃ……」

智樹は見る見るうちに顔が青ざめていく。




『私、半年以内に死ぬの』


声だけがフラッシュバックする。顔も名前もわからない。けど、今日が五月であって五月ではない。

僕は、二度目の五月を過ごしている。そんな気がする。



廊下から、女子の話声が聞こえる。

「ねー。まり!優子とボランティア部に入部したの?」

「そうだよ。先輩はとっても優しいんだけど、いっつも寝てるんだよね」


智樹はその話声に何か聞き覚えがあった。

『オタク先輩』

いてもたってもいられず教室を飛び出した。


「智樹!どうしたんだよ」

幸人は訳が分からず困惑した声で言った。


智樹は急いで、まりの後を追った。


「えっとその、オタク先輩って呼ばれてたその……」

まりは、怯えたように話していた女子の後ろに隠れた。


「誰なんですか?まりが嫌がっています。これ以上こないでください」

まりはうっすらと目に涙を浮かべていた。



———どうしてこんなに胸が熱くなるんだろう。締め付けられる。忘れちゃいけないのに何か忘れている。


「智樹。どうしたんだよ」

幸人は息を切らしながら言った。

「お前、本当にどうしたんだよ」


何かを探すその何かが分からないのに。

「どいて」


顔をうつ向かせた女子はそう言った。


「あっ、ごめんね月見さん」

幸人はさらりと何事もなかったようにその名を呼んだ。


「月見?」

「智樹、月見さんタイプなのか?月見さんは、地味子って呼ばれてるんだけどやっぱり、顔かわいいよな。隠せないっていうか……」


「そうじゃなくて、月見さんって関西弁だったりするか」

ふと関西弁が口からこぼれるように出たのには、自分でも驚きを隠せなかった。


「関西弁?月見さんしゃべらないからな」


『香口君の選択でこの世界変わるんやから』


智樹の耳元でこだまする。

「どうして。鈴木」

零れ落ちたその言葉は、懐かしくて苦しくて忘れていたそんな言葉だった。


「鈴木、鈴木は?」


幸人のジャケットをつかむと唇をかんだ。


「何言ってるんだ、智樹」

困ったようにうなだれる智樹の頭をそっと幸人は撫でた。


「まだ現実受け止められてないのか」


「え、」


「鈴木、鈴木杏奈は、二年前に亡くなってるだろ。変な夢でも見たか?」

ただ智樹はそこに立っているしかなかった。



授業が始まっても、全然内容が頭に入ってこない。やっと鈴木杏奈という名前を思い出したのに。放課後、幸人は頭を冷やしたほうがいいと言って川辺に誘った。


「どうして川辺なんだよ」

智樹の質問がおかしかったらしく幸人は笑った。


「前、あーちゃんが亡くなったときよくお前がここで泣いてるの思い出したから。でも、お前、泣きすぎたのか、いつしか、ケロッと忘れてしまったみたいだったから、この話は禁句だったのかなって」


幸人に秘密ごとをさせてしまった自分が恨めしく思いつつも本当に忘れてしまったことを幸人に明かした。


「辛かったもんなあの頃は、俺と幸人と杏奈はみんな幼馴染。幼稚園が一緒だっただけだがいろんなことをした。花火やったり、七夕にはかぐや姫の劇やって杏奈が、かぐや姫役やったり……。確か、小学校に上がる前に家の事情で五年生まで海外に行ってたけど、帰ってきて亡くなる一週間前まで学校に通ってたから俺たちもただの熱だろうと思ってたのにな」


幸人は急に言葉を詰まらせた。

遠くからは、トランペットの心地よい鋭い高音が風と共に草木を揺らす。


「じゃあ俺、帰る」

そういうとバックを素早く片手で握ると走り去っていった。あまりに早くその後ろ姿を見送ることしかできなかった。



「なにやってるんですか?」

聞き覚えのある声は川辺の風と同化する。ふと後ろを向いた

「香口君。私は、あの時も言いましたよね?」


「月見?なんで標準語!?」

月見は驚いたように大笑いした。


「何でそこ?」

「いや気になるだろ」

月見は咳払いをした。


「『あなたの選択で世界は変わる』と。チャンスを与えたのに。どうして君は、モノにしない」

「じゃあどうして、僕にチャンスを与えるんだ」

見る見るうちに月見の顔は真っ赤になった。


「もういい。私は情けで与えた。だって、ちゃんと鈴木さんとお別れできなかった君は命を絶とうとしていたから」

蘇ってくる記憶がそこにはあった、自分が何で川辺にきていて鈴木が最後に言った言葉。


『君になんて合わなきゃよかった。絶交』


もう聞きたくない言葉に思わず耳をふさいだ。


「もう一度チャンス欲しい?」

その言葉は、智樹の胸を締め付けた。


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