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ようこそボランティア部へ  作者: 白石みのり
交流会でボランティア
12/33

第10,5話 懐かしさ

「香口君は誰が好きやの?」

月見の唐突な質問とともに手持ち花火の火力は増していく。


「いや別にそんな」

「ええから、答えて」

プールサイドの向こう側に立っている鈴木がよく見える。昔もこんなことあったようなそんな気がした。


「香口君は鈴木さんのこと、どう思う?」


「急に、ほんとなんだよ」

吐き捨てた言葉を月見はすぐにすくいあげる。


「柄にもなく積極的だな」

「うちもこんなんしとうない」

月見は涙をこらえるようにしゃがみながら線香花火を眺めた。


「香口君の選択でこの世界は変わるんやから……」

意味深な言葉は、智樹の脳裏に刻まれる。


「前にも……」

聞いたことのある。いくら考えてもわからない。頭に靄がかかるばかりで。


         *

流れる水が悲しさを消してくれる気がした。

「どうしてそんなに泣いているんだ」

一人でいたところにふと話しかけられて、智樹は少し戸惑った。


「あーちゃんが病気で亡くなったんだ」

発する言葉はやっとで辛くなる。謎の人は顔も見えない男か女かもわからない。でもなぜか話を聞いてほしいと心から思うのだから不思議だ。


「君は、その子を生き返らせたいか?」

首を縦に振った。


「では、生き返らせてやるよ」


「本当にできるの?」


「ああ。だが、代償はある」

智樹はその言葉の怖さよりも失ったものを取り戻せる希望の光が照らした。


「それでもいい」


「分かった。だが、制限時間もある。それは、君が思い続けられるかどうかだ。」

「思い続けられる?」

「その子はもう遺骨になったのか?」

「なってる」

智樹は小さい声でつぶやいた。脳裏にはお葬式の場面が繰り返し繰り返し流れてくる。杏奈ともっといい思い出はあったはずなのに、そんなことも思い出せないくらいに動揺していた。


「遺骨になった人なんて生き返らせないだろ」

長い沈黙に耐えかねた智樹は聞いた


「一つだけ方法がある。だがそれは、さっきの代償より難易度は上がる」

智樹は首を傾げた。日がかくれんぼするように出たり入ったりを繰り返す


「思い続けることが難しいという点でだ。ないものを出すのは難しいことだ。だから、君の記憶にある子を出す。そうすると、君はその子の記憶はすべてなくなる」


「なくなった記憶はどうなるの」


「やったことはないが、消えたままかそれとも記憶の修正で、全く趣旨の違う記憶になる」

智樹は、唾をごくりと飲んだ。もう夕暮れ時だ。5持のチャイムがあたりに響く。


「もし生き返ったら、周りの人は不審るけど大丈夫なの?」


智樹は泣き疲れて枯れた声で言った。


「君以外には死んでいないという暗示がかけられる。もっとも、君は死んだことすら忘れてしまうが」

「それでいい。それがいい」

智樹は、唇を軽くかんだ。もう空は青く染まっている。


「では、目をつぶってその子のことをいいというまで思い出し続けなさい」



そして目をつぶった。




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