第10話 真っ黒な星
あたりは次第に暗く深い青色が世界を包み始め、きれいなグラデーションに染めていく。
「今日は流れ星も見えるかな?」
鈴木は、バケツの中に水を入れプールサイドに置く。バケツの水には、月の光が反射して月と一等星が見える。
「さあ。どうかな」
「香口君そっけないな」
少し不服そうに眼をそらす鈴木は、月の光に照らされて幻想的に見えた。
*
私は知っていた。
交流会終わった後、急いで舞台に駆け付けた智樹は私に、「舞台よかったよ」といったのだ。まるっきり嘘なのに。
数日たって、月見さんの看病に行ってったことを知った。うらやましくて吐き気がした。こんなに智樹を知ってるのに……。前は、香口君なんて言わなかった。
「ともくん」
その言葉を部屋で一人で暗示のように言ってる。それでもむなしくなるだけで、うれしさも懐かしさも感じられなくなっていた。
私には時間がない。わかってる。この命は、智樹の記憶が戻れば戻るほど私は消えていく。そして、つけ焼き刃のような命は時間制限もある。本当は、半年なんて言う時間もなかった。
一度私は、死んでいた。
智樹は、自分の私への思いと記憶をすべて消してまで私を生き返らせた。
でも、そんなこと知ってしまったらますます私はつらくなっただけで智樹は報われない。こないだの昔話も確かめただけだった。けれど、智樹の中の私は話したこともないそんな子だ。
ほんとはそんなことないのに……。本当は、幼稚園からの幼馴染なのに。転校してきたのは、君のせいなのに。
でも、記憶が戻ってしまったら私の存在が無くなり、ここにいることも許されない。そんなことを思ったら、言葉が出なかった。
*
「あーちゃん?どうしたの?」
「大山先輩」
「もう花火やってるよ」
目の前には、優子と真理が線香花火をしゃがんで眺めあっている。
「あれ?香口君と月見さんは?」
「二人は、ラブラブ中」
「はいぇ」
思わず変な声が出た。プールサイドの向こう側に二人で途中で色の変わるススキを持って何かを話している。
「あれ?あれ?」
「あーちゃん?」
一筋の涙が意味もなくひたすら流れて、手持ち花火の光で見える二人の姿は次第にぼやけていく。拭ってもぬぐっても見えなくなっていった。
星空はこんなに輝いているのに、私の心は真っ黒になるばかりだ。