第15話 裏双子
「う〜〜〜〜ッ!!つ、つかれたぁぁぁぁっ」
今、あたしはお茶会への道を歩いております。
いや、実を言うとこんな冷静に解説してんのおかしいくらい疲れてんだけどね?でも仕方ないじゃないですか!あたししかいないんですから・・・!
「す、水筒持ってくればよかった・・・」
今頃後悔しても遅いんだけどね。頑張れあたし!!あともうちょいでアーモンドのアイスティーが飲み放題なんだ!!!
「あ・・・みえた、かも・・・・」
潮風に向かって歩いてくると、コバルトブルーの綺麗な海が見える。その目の前に見える画像の端に、小さなログハウスと一組のテーブルセット。ちょこちょこ見えている黒い影は人だろう。
そのまま歩いていると、だんだんと人の区別がつくようになる。並んで座っているのはモカとカプチーノだろう。で、ひざにお座りのセットはシロップとコナだろうな。で、一人で何かをこねているのは多分お菓子作りのアーモンド。
ほのぼのしすぎてて、そこにいる謎の人影をあたしは見逃していた。
「つ、着いた・・・ついたよあたし・・・」
「うん?どうした?ずいぶん疲れてるみたいだな」
ヘタって着いたあたしをアーモンドがコック帽姿でお出迎え。いつもこんな格好で料理してんのか。
「疲れてますから・・・」
「いったいどうしたんだよ?でも、たった今レーズンクッキーが焼きあがったぞ。とりあえず卵黄パンも焼いてるけど・・・ホットココアでも飲むか?」
「う・・ありがと・・・冷たいのがいいな・・・」
「こんにちは、紅誇お姉ちゃん!」
満面の笑みで迎えてくれたのはシロップ。うん、その笑顔は癒されるよ。認めちゃうけど、多少ショタロリコンっ気のあるあたしにはかなり萌えるよ。
「こんにちは。コナ君もこんにちは」
「んむ・・・」
「あ、ごめん」
お昼寝の最中だったみたい。すごい、シロップのひざの上で寝るんだ。可愛い。
「あ・・・?紅誇、きたの?」
「え?」
声の元は、モカ。いいね、これ。髪の色がちがくて区別しやすい。て言うか、口に生クリームがついてるよ。いいのかな?あ、今舐め取った。ちょっといたずらっ子ぽくって可愛い。
「うん。もしや今気付いた?」
「うん」
「あ、紅誇。ケーキ頑張って食べ過ぎて気付かなかった」
「太るよ、カプチーノ・・・」
そっくり同じの、声の主。カプチーノも口とかほっぺに生クリームがつきまくりだって。取ろうよ。せめて口の周りのは舐めようよ(あたしがそれを見たいだけなんだけど)。
「大丈夫だよ。僕ら、太らない体質だし〜♪」
「いや、そういう問題じゃなくね・・・・」
「んあ?カプチーノ、ほんとにどうやって食べたの?ほっぺとかつきまくり」
「嘘!」
「今取ってあげる」
そういうと、モカはカプチーノのほっぺに付いている生クリームを舐め取った。
「・・・・いやあの、何か間違ってる気がしますけど・・・?!」
なんで、えちょっと待って、普通兄弟のほっぺに付いてるの舐めなくない!?おかしいって!カップルならわかるけどね!?
「・・・モカは極度のブラコンだし」
「は?」
シロップの発言に耳を疑う。だってこの人Sじゃん!
「シロップ、それ以上いうと時限爆弾と一緒に宇宙に投げ出すよ」
「物騒なこというんじゃありません!!!」
「そしたらモカを漏れなく道連れにするよ」
「シロップぅ!?」
ヤバイ。怖いよ、君たち。恐ろしいから。すごい怖いから。なんなのいったい。
コナが目を覚ました。
「しろっぷ、しぬときは・・・・」
「ん?」
「ぼくもいっしょに、しぬから・・・」
「ちょっとォォォ!!!会話が危ないィィィ!!」
いや、なんでコナまでこんな物騒なこと言うんだよ!どういう教育したんだ君たち!?
「おい、紅誇」
「え?」
「アイスピーチティー作ったけど」
アーモンドがピンク色の液体がたっぷり入ったグラスを差し出してる。今気付いたけど、ホームパーティーにきときながら、あたしまだなんも飲んでなかった。
「ん、ありがとう」
仄かな甘みが鼻をくすぐる。うん、おいしいこと決定。
コクン。飲んでみるとまた新しい味がのどに広がる。
喉渇いてたから余計に甘い水玉が喉を転がってるのを感じる。
ピーチの味が甘苦く口を潤す。
・・・いやいや、何超枯渇してた人みたいな解説してるんだ。いや、一応枯渇はしてるんだけどね。
「うまかったか」
「うん」
「そりゃよかった」
「ねえあなたたち、みんな俺のこと忘れてるよね?」
「・・・へ?」
今、聞きたくない声が聞こえたような。なんとなく、嫌な記憶があるようなないような。
そう、この声は、今たぶん一番出番のない・・・・・
「潤風ゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「何、そんなに俺に会いたかったの?」
「んな訳あるかこの人殺しィィィィィ――――!!!」
うわ、なんでこんなとこにこいつがいんの?!こいつ前ピラニアにあたし食わそうとしたんだよ?!ギャー、逃げていいっすか?!いいっすか?!
それなのによくも「会いたかったの?」とか聞けるなこのアホ!どういう神経をしてる!
「なぁに、このロリコンとお知り合いなの、お姉ちゃん」
「ロロロロリコン?!」
「うん。こいつロリコン」
変態だ!!絶対Sだとは思ってたけど変態だ!!
「ろ、ロリコンS男――――!!!!」
「やだな、人聞き悪い」
「悪くて当然だ早く立ち去れ!!こんなロリショタパラダイスから早く出て行け!」
「ひどいなぁ紅誇さまは。この間は俺のおかげで王子様に助けていただけるなんていうロマンチックな演出を味わえたのに」
「頼んでねーよ!つーか攫ったじゃんお前あたしのこと!おかしいだろもうちょっとで死ぬとこだったんだよ!」
コイツ相手だとどうしても攻撃したくなる。ってか、しないと気が済まない。殺されかけたし。
「べつにいいでしょ」
「いいわけあるか!」
なんていうことをいうんだこの狼は!!クレイジーめ!
「・・・・・・気狂い」
「・・・・・・ロリ魔」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
いやいや、今のは聞かなかったことにしよう。モカとカプチーノがすっごい怖い顔でクレイジー狼を睨んで(ガン見?)いたことも全部目逸らしで。これ以上この世界に怖い人が増えてほしくないし。(こっちが本音)
「みんな酷いな、ねぇアーモンド公爵?」
馴れ馴れしくアーモンドに触れるクレイジー狼。
「まあ多少はもうちょい仲良くしてもいいと思うけどな。けどこのロリータコンプレックス狼。お前も少しはそのSなとことかロリコンとか極度の常識外れとか、考えた方がいいんじゃないか」
「アーモンドは優しいなぁ」
「「・・・お前、人の話聞いてないだろ」」
あたしとアーモンドのダブルツッコミ。
「でも貴女もそのM属性直した方がいいと思うよ紅誇」
「何故?!あたしはマゾになった覚えはないけど!?」
何を言うんだこのクレイジー狼は!!!だれがMになった?!
「いや、貴女は十分Mだ。どこかと言えば普通に猿轡されても反抗しなかったところとか湖に捨てられそうになっても動かないとことかすぐ押し倒されちゃうとことかかな」
「知るか!だって猿轡に薬しみこませてたし湖の件は後ろからお前が押したんだろ!押し倒したっていうかお前が上から降ってきたんじゃん!」
「・・・そんなことしてたのクレイジー」
「・・・信じらんないもう紅誇が可哀想」
ざっ。あたしとクレイジー狼の間に双子が立つ。背格好が同じでかっこいい。
っていうか、背があたしより高いんだよな。いいなぁ。
「乾いたモヤシのように世間のかどで生きろよ」
「一生僕たちの前に顔を出すんじゃない」
一歩二人が踏み出す。地鳴りのように地面が揺れた気がす・・・
ええ、ちょちょちょっと待て、だから最近なんであたしはこんなに冷静なんだ!?地鳴りだよジナリ!おかしいでしょ!しかもこれから何が―――?!
「死ね」
「ギャァァァァァァァ!!!!!待て待て待て!早まるな!うわぁぁぁ!まてぇぇぇぇ!!!!」
その日あたしは、ボロボロになって二人の暴走を阻止した。初めてMな男が人を殺そうと(うわ)する現場を見たと思う。
これから、クレイジー狼とあの双子がご一緒するところを見たら一目散に逃げ出そうと決意した。
うわー、死の影がちらついちゃいましたよ。
そろそろ、女王様を出さないと・・・・