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梶川紹也は厨二病をこじらせていた

 優馬は会議室の壁に掛けられた丸い時計に目を遣った。



「お、そろそろ約束の18時だ。神様が来るかもしれない。能力紹介は中断して待つとしよう」


「アホ。自分の順番が回ってきた途端に時計を確認するだなんてわざとらしいわね。そんなに自分の能力を発表するのが嫌なの?」


 緋里の指摘は図星である。

 4人の中でも、優馬の能力はダントツでショボい。


 美衣愛の能力は、たしかに人命救助の役には立たないだろうが、美衣愛自身を幸せにしている。


 緋里の能力は、医学の道を実直じっちょくに志している緋里にとっては不要かもしれないが、社会的にはかなり重宝されるものである。


 通洋の能力は、普通にうらやましい。おそらく女子にもモテる。


 それに比べて、優馬の能力はどうか。

 気持ち悪いだけで全く使い道がない。首は伸び縮みするものの、ゴムのような弾力を備えているわけではないので、某麦わらの少年みたいに戦闘せんとうに活用することもできない。



「あはは。嫌なわけじゃないよ。あはは」


「いきなり愛想笑あいそわらいが増えたわね。怪しい…」



 そのとき、会議室のドアがバタンと開く音がした。


 ナイスタイミング。優馬は初めて神様に感謝した。



「神さ…」


 …いや、違う。入ってきたのは神様ではなかった。

 大体、神様はどこからともなくドロンと現れるものであり、ドアから入ってきたりはしない。


 ドアを使って入ってくるのは、人間である。



「ギリギリセーフ!」


 薄手のライダースジャケットを羽織はおった男が、肩で息をしながら、会議室を見渡した。

 手には例の案内状が握られている。



「ドアホ。ギリギリアウトよ」


 今度は緋里が時計を見て言った。

 たしかに18時を30秒ほど回っている。



「お姉さん、時間に厳しいっすねえ…細かい女はモテないっすよ」


 ライダースジャケットの男が歯を見せる。小麦色の肌とのコントラストで、白い歯が厭味いやみなくらいに際立きわだっている。


「時間にルーズな男よりはマシよ。それから、「お姉さん」って呼ばないで。ここに集められた者は全員同い年のはずだから」


「へえ、お姉さんも24歳なんだ。見えないっすね。もっといっ…」


「それ以上喋ったら殺すわよ」


「…は、はい」


 第一印象からして明らかにお調子者であるライダースジャケットの男も、緋里に威圧感いあつかん屈服くっぷくし、あっという間に尻尾しっぽを抜かれてしまった。


「俺、どこに座ればいいんっすか」


 ロの字の4辺がすでに埋まっている様子を確認して、ライダースジャケットの男が尋ねる。



「私の隣が1席空いてますよ」


 美衣愛がライダースジャケットの男に微笑みかける。


 マジか。優馬がいる角度からからは死角しかくになっていて、そこに椅子があることに気付けなかった。

 クソ。気付いてたら迷わずその椅子に座ったのに。

 美衣愛の隣に陣取じんどることに成功したライダースジャケットの男は、ウマづらで元々長い鼻の下をさらに伸ばしていた。



「座ってもらって早々悪いんだけど、あんた、立って自己紹介してくれない?」


「俺っすか?」


「そう。あんたが来る前に他のメンバーはすでに自己紹介を済ましてるの。あ、一人はまだだけど」


 優馬が視線をらすと、緋里はチッと舌打ちをした。



「俺の名前は梶川紹也かじかわしょうやっす」


「仕事はフリーターでしょ?」


「おお、お姉さん、すごいっすね。エスパーっすか?」


「エスパーじゃないわ。偏見へんけんよ」


 緋里は清清すがすがしいほどにハッキリと本音を口にした。



「あんたも要らない能力を神から授かってんでしょ? どんな能力」


「言っとくけど、俺の能力はマジでヤバイっすよ」


「そんなにショボいの?」


「違う違う。超カッコイイんっす」


「カッコイイ? どんな能力なの?」


「聞いて驚かないで下さいね…地獄の業火ごうかで全てを焼き尽くす能力」


「は?」


 緋里は全力で眉間みけんしわを寄せた。本日でもっともけわしい表情と言って差しつかえないだろう。



「説明して」


「説明するも何も、読んで字のごとくっすからね。地獄から火を呼び寄せるんっすよ。何でも焼き尽くしちゃうヤバイやつを」


「なんで? なんでそんな能力を欲しいと思ったの?」


「いや、だってカッコイイから…」


「それだけの理由?」


「え? だって、神様が現れたとき、俺、中二ですよ? 厨二病ちゅうにびょう全開のときっすよ?」


 緋里は相変わらず首をかしげているが、優馬は紹也の説明で十分に納得できた。

 中学二年生の男子というのは所詮しょせんこんなもんだ。

 格闘マンガに毒され、バイオレンスな響きのものに不思議とかれてしまう年頃なのである。



「その…地獄の業火というものは、バーベキューにも使えるのですか?」


 こんなほっこりとした質問を投げかけたのは、もちろん美衣愛である。



「無理っすね。全て焼き尽くしちゃいますから。野菜もお肉もバーベキュー台も、一瞬にして全てはいになるっす」


「それは困っちゃいますね…」


「そうなんっすよ。深夜の公園で試しに一度この能力を使ったら大火事になっちゃっって。それ以来、一度もこの能力は使ってないっす」

 

 ハッハッハッと紹也は豪快ごうかいに笑った。


 分かった。こいつはバカだ。正真正銘のバカだ。




「じゃあ、最後はあんたよ。観念しなさい」


 緋里だけでなく、美衣愛や通洋までもが優馬に熱視線を送っている。


 紹也がハードルを下げてくれたことだし、そろそろ潮時しおどきかもしれない。



 優馬は意を決し、自己の能力を披歴ひれきすることにした。


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