四元美衣愛は甘いものを食べ続けていたい
「神様被害者の会…」
優馬は漆黒の女の言葉を反復した。
「そうでしょ? あんたも神様に要らない能力を押し売りされた被害者なんでしょ?」
「まあ…」
「ちなみに、あんた、どんな能力を授かったわけ?」
漆黒の女は、睨みつけるような鋭い眼つきを優馬へと送り続けている。
「いや、俺は別に…」
「何よ。はぐらかさないでよ」
はぐらかすしかない。
如何せん恥ずかしい。
ろくろ首のように首を自在に伸ばせる能力なんて、単なる笑い種だ。一昔前だったら間違いなく奇人館に収容されて見世物になっている。
しかも、能力を有するに至った動機まで含めて話さなければならないとすれば、あと1ヶ月を待たずして死んだ方がマシである。
「どんな能力を授かったのか、お前が先に話せよ」
「お前って誰よ?」
「お前だよ。悪魔女」
「は? 何様のつもりなの? 呪い殺すわよ?」
「二人とも喧嘩はやめてください!」
純白の少女が、か細い声を懸命に張り上げた。うるうるした瞳が優馬と漆黒の女を交互に映す。
「はい。ごめんなさい。仲良くします」
「おい! 変態! 恭順するのが早すぎるわよ!」
漆黒の女が吠えた。
「俺は気付いたんです。争いは何も生まないって」
「よくできました」
純白の少女が優馬に向かって拍手をする。照れながら頭を掻く優馬を見て、漆黒の女が舌打ちをする。
「下心がオープンすぎでしょ…」
毒付く漆黒の女を微笑みでなだめると、純白の少女は立ち上がった。
「とにかく皆さん、まずは自己紹介をしませんか? まずは私から。私の名前は四元美衣愛。年齢は24歳」
優馬と同い年だ。
見た目は年齢よりも10歳近く若く見えるので、意外である。
優馬の対面に座っている男性も同じ感想を抱いたようで、目を見開いている。
「えーっと、あと、何を話せばいいですか?」
「趣味は? 好きな映画は? 休みの日は何してるの?」
「おい! 変態! 少しは下心を隠しなさい!」
またもや喧嘩の勃発しそうな雰囲気にオドオドし始めた美衣愛に対し、今度は漆黒の女が質問をする。
「美衣愛はどんな能力を神様から授かったの?」
「大した能力じゃないんで、恥ずかしいです…」
「多分みんなそうだと思うから、話してみて。後で私も話すから」
美衣愛は両手の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジとしている。
可愛すぎかよ!
おそらく本物の天使だってここまでは可愛くない。
「あの…私、甘いものが大好きなんです」
可愛すぎかよ!×2
美衣愛のキュートなルックスにこれほど似つかわしい発言は他にない。
「でも、甘いものをたくさん食べてるとお腹いっぱいになっちゃうじゃないですか。スイーツの食べ放題に行っても、ケーキを50個くらい食べたら、うぅ苦しい、もう限界、ってなっちゃうじゃないですか」
50個でも大健闘だと思うが、美衣愛の言わんとするところはなんとなく理解ができる。
「私、それがすごく嫌だったんです。うぅ、いつまでも甘いものを食べていたいのにぃ、ってなってたんです」
わがままというか子供っぽいっというかめちゃくちゃというか…要するに可愛すぎる。
「だから、10年前、私は神様にお願いしたんです。甘いものをいくら食べてもお腹いっぱいにならないようにして欲しいって」
「可愛いの伝道師」美衣愛は、神様へのお願いの場面においても期待を裏切らなかった。
仮にお願いごとが「韓流スターとデートがしたい」とかだったら、優馬は発狂するところだった。
やっぱりこの子に一生ついていこう。
「私は、甘いものを食べても食べてもお腹いっぱいにならないし太らない能力を手に入れて、とても幸せになりました。ケーキを何百個、何千個食べてもお腹いっぱいにならないんです。私が行きつけになったスイーツ食べ放題の店は不思議と次々と潰れていったんですけど、その度に新しいお店を探して、私はスイーツまみれの青春を送りました」
一人に客にケーキを何百個、何千個も食べられてしまえば、店が潰れてしまうことは当然のように思える。
「バカみたい」
そう吐き捨てたのは、案の定、漆黒の女だった。
こいつが「可愛い」を1ミリも理解していないことは、全身黒のファッションからして明らかである。
「そうなんです。私はバカだったんです。この能力は私自身は幸せになれるんですけど、他人を幸せにすることはできないんです。ましてや人の命を救うだなんて、絶対にできません。私、あと1ヶ月で死んじゃう…」
やはり、美衣愛も優馬同様、神様から能力をもらった代償として人命救助を強いられているようだ。
美衣愛の能力は、優馬の能力と負けず劣らず、使えない。
美衣愛も神様から死刑宣告を受けた身なのである。
そのリミットは優馬と同じく、1ヶ月後。
今日中に5人全員の能力を晒せればと思います。