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井沢優馬は言い訳がしたい(2)

 優馬の目の前に突然神様が現れたのは、今からおよそ10年前。

 優馬が14歳の頃だった。


 「目の前に突然神様が現れた」というと、何か素敵なことのように思われるかもしれない。

 たしかに、たとえば不治の病に侵され病床に伏していたところ、目の前に突然神様が現れた、だとか、長年真摯に礼拝を続けていたところ、目の前に突然神様が現れた、という場合であれば、それは大層たいそう素敵なことであろう。


 しかし、優馬の場合、神様との邂逅かいこうは風呂場で果たされた。近所の銭湯せんとう大浴場だいよくじょうで、である。




「うえぉ?」


 変な声が出てしまうのも致し方がないであろう。

 シャワーで身体中についた石鹸せっけんの泡を流している最中に、目の前に突然ヒゲづらのジジイが現れたのである。

 言うまでもなく、優馬は文字どおりの「無防備」な状態だ。



「だ…誰…?」


「わしは神様じゃ」


 ヒゲ面のジジイは、自分のことを「神様」と名乗った。

 せめて「神」と名乗れよ。自分自身を「様」付けするなよ、と今となっては強く思う。



「君は井沢優馬じゃな?」


「は、はい」


 神様が優馬の全身を見渡したので、優馬はあわてて手ぬぐいで大事なところを隠した。



「突然だが、君に特別な力をさずけよう」


「はい?」


 本当に「突然」の申し出だった。「突然だが」という枕詞を付ければ、どんなに唐突なことを言っても許されるとでも思っているのか。



「わしも忙しいから、君だけに時間を割くわけにもいかん。どんな力が欲しいのかを10秒以内に回答してくれ。10…9…」


「ちょっ、ちょっと待って! 何?? 特別な 力って何!?」


「7…6…」


「カウントダウン止めて! 分からないんだけど!!」


「5…4…」


「ちょっと!? マジでどうすればいいの!?」


「とにかく君の望みを言いたまえ」


「望み!?」


「2…1…」


「女湯をのぞきたい!!」



 

 3つ言い訳をさせてもらいたい。


 1つ目。圧倒的に時間がなかった。

 正しい判断をするためには十分な時間が必要なのである。

 諸君しょくんは通販番組で「今から24時間以内に電話をした方限定」とかされ、ロクに使いもしないぶら下がり健康器や千切せんぎりマシーンを買わされたことはないだろうか。


 人は時間を与えられないと判断を誤る。

 ましてや今回優馬に与えられた時間はわずか10秒である。


 全力で判断を誤るに決まっている。



 2つ目。14歳という年齢が悪かった。

 諸君も知っての通り、年頃の男の子の頭の中を解剖かいぼうしたら、中にはエロいことしか詰まっていない。コンビニの週刊誌コーナーの前で、表紙に並んだ淫猥いんわいな言葉を拾い読みしているだけで小一時間こいちじかんつぶせる生き物、それが中2男子だ。


 中2男子にとって、女湯とはまさしく夢の世界である。

 湯煙ゆけむりの向こう側に無限の宇宙コスモを感じる。ビンビンに感じる。



 3つ目。場所が最悪だった。

 なぜ銭湯なのか。

 銭湯という場で、中2男子に対して、壁一枚を隔てて存在する女湯のことを意識するな、という方が無理な注文である。

 ぶっちゃけると、当時の優馬も、神様に声を掛けられる直前までずっと女湯のことを考えていた。壁のタイルに指をかけて登ることはできないかを真剣に検討けんとうしていた。



 だから、誰も優馬をめられない。

 諸君も優馬と同じシチュエーションに立たされたら、きっと「女湯を覗きたい!!」とシャウトするはずだ。

 優馬が人一倍ムッツリである、ということはないはずだ。




「承知した。君に女湯を覗くための能力を授けよう」


 神様は目をつぶると、何やら呪文のようなものをブツブツと唱え始めた。

 このときの優馬の心境は、言うまでもない。ドキドキワクワクである。


 

 神様の暗唱あんしょうが止まる。



「よし、これで完了じゃ。君は特別な力を授かった」


 優馬は自分の裸体らたいをペタペタと触ったものの、何ら異変は感じない。

 目の前の鏡に映る自分も、まるっきりの今までの自分である。



「僕、特別な力を授かったの?」


「ああ、授かった」


「本当?」


「本当じゃ」


 神様はドヤ顔を浮かべるだけで、優馬が特別な力を授かったことの根拠を挙げてくれることはなかった。

 とはいえ、仮に優馬が特別な力を獲得していないとしても、所詮しょせん差引プラマイゼロである。

 女湯を覗けないのは残念だが、別に神様にお金を支払ったわけではないため、優馬が損をすることはない…と思っていた。


 

 神様の次の言葉を聞くまでは。



「今日から君は特別な力を持ったヒーローじゃ。この特別な力は世のため人のために使わなければならん。授かった力を使って人の命を救うんじゃ」


「は?」


 完全にムチャブリだ。

 具体的にどんな能力を授かったのかどうかは不明だが、女湯を覗くための能力が人命を救うことにつながるはずがない。それは正義か悪かでいえば、間違いなく悪寄りの能力ではないか。



「リミットは今から10年じゃ。そのときには君は24歳かのう」


「ちょっと待って! それまでに人の命を救えなかったらどうなるの??」


「死ぬ」


 驚くほど快活かいかつに神様は答えた。



「ふざけんなよ! じゃあ、特別な力なんか要らない!」


 優馬が声をあらげて抗議こうぎする姿を、神様はボール遊びする仔犬こいぬを眺めるかのようなおだやかな表情で見ていた。微笑ましい、とでも言わんばかりに。



「井沢優馬、それではよろしく頼んだぞ」


「おい! ふざけんなよ! おい! クソジジイ! おい!!」


 優馬は神様の首筋に思いっきりみ付いたつもりだったが、歯と歯が思いっきりぶつかっただけだった。


 神様は姿をくらましたのである。


 早速ptを下さった方に感謝を申し上げます。

 久々に小説を書くので、思い通りにいかないことがたくさんありますが、とにかく前に進んでいきますので、引き続きご支援のほどをよろしくお願いいたします。

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