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井沢優馬は言い訳がしたい(1)

 階段を踏みつけるようにしてのぼると、優馬は203号室のドアを力任せに押した。

 無論ノックなしで。

 

 9年11ヶ月ぶりに会う神様への挨拶あいさつは決まっていた。

 胸ぐらをつかんで、顔面を殴る。

 神様に物理的な攻撃が効くのかを立ち止まって考えられるほどの冷静さは、すでに優馬から失われていた。



「おい! 神、てめぇ……」


 ここまで口走ったところで、優馬はようやく冷静になった。

 というより、冷静にならざるをえなかった。

 なぜなら、会議室には神様はおらず、代わりにいたのは人間-しかも、純白じゅんぱくのワンピースを着た美少女だったのである。



 優馬が今まで会った女性の中で最も美しいと言っても過言かごんではない純白の少女は、大きな瞳をうるうるさせ、優馬を見つめている。

 すくめた肩の上で、毛先がカールした茶色い髪が跳ね上がる。

 …鑑賞している場合ではない。

 少女の仕草は、彼女が優馬に対しておびえていることを示している。



「ご…ごめんなさい」


 優馬は純白の少女に頭を下げた。



「大丈夫です。お気持ちは分かります」


 純白の少女の声は、少女の見た目とピッタリと合う、おさなな声だった。

 少女は背が低く、華奢きゃしゃであり、ワンピースを着ているというよりも、ワンピースにおおわれているように見える。年齢は中学生か高校生くらいだろうか。



「とりあえず、どこか空いている席にお座りください。集合時間まであと15分ほどあります」


 純白の少女は優馬に優しく微笑ほほえんだ。


-そうか優馬は実はもうすでに死んでいたんだ。そして、ここは天国なんだ。


 はあ、天使って本当に存在するんだな。こんなに可愛い天使と出会えるんだったら、もっと早く死んでおけばよかった。

 死の恐怖に怯えて過ごしていたここ数年がアホらしく思える。



「おい、アホ。鼻の下伸ばしてないでサッサと座りなさい」


 ダミ声が、優馬の頭の中で流れ始めていた賛美歌さんびかさえぎった。

 声がした方を振り向くと、そこには漆黒しっこくまとった女が座っていた。



「悪魔!」


「はあ? 誰が悪魔だって? ハチの巣にするわよ。このアマめ」


 髪の色はもちろん、トップス、ボトムス、ソックス、シューズに至るまで全ての配色はいしょくが黒。

 きわめつけは、レンズの分厚ぶあつい黒縁メガネの向こう側で優馬を睨みつける長細い目。

 

 純白の少女が天使ならば、この漆黒の女は悪魔に決まっている。



「悪魔、いつの間に…」


「アホ! 最初からいるわよ! 可愛い子に見惚みとれて、周りが見えなくなってるんじゃないわよ!」


 たしかに漆黒の女の言うとおりかもしれない。

 その証拠に、会議室には純白の少女と漆黒の女に加えて、もう一人男性がいた。

 純白の女性を見た瞬間、優馬は神様への怒りとは違った意味で、冷静さを失っていたようだ。



 優馬はロの字型に並んだ机の一辺に空いている椅子を見つけ、腰掛けた。

 これでロの字の各辺に一人ずつが座っている格好となる。



 純白の少女と向かい合う辺には、漆黒の女が座り、二人の女性と90度に交わる辺上に、優馬ともう一人の男性がそれぞれ座っている。


 収容人数が20人を超えるであろう広い会議室。長机が3つ繋がって構成されたロの字の各辺。

 

 残念なことに純白の少女とは離れた位置の席になってしまったが、それでも少女のハニーパイのような甘い匂いがここまで届いているような気がした。




「こうして被害者がまた一人集まったわけね」


 漆黒の女が誰に話しかけるわけでもなく、ボソリとつぶやく。



「被害者? 何の?」


 優馬の問いかけに対して、漆黒の女は右手に持った紙をヒラリとかざした。

 優馬が持っているものと同じ、例の「案内状」である。


 優馬は同じものがさらに純白の少女の机の上にも、もう一人の男性の机の上にも置かれていることに気がつく。



「ということはここにいるのは全員……」


「そうよ。神様被害者の会。要らない能力を押し売りされた者たちの集まりよ」


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