薬師通洋は鳥の知らせを聞いた(4)
「ステップ2。『連れ出す』。紹也、お前の出番だ」
「お、ついに真打ち登場っすね!」
優馬が細い目をしていることに気付いてもなお、お調子者は半笑いをやめなかった。
「俺は何すればいいんっすか? その自殺志願者を焼き尽くして楽にしてあげればいいんっすか?」
「そんなわけないだろ!」
たしかに、地獄の業火によって痛みを感じる間もなく死ぬことを望む自殺志願者は少なくないだろう。遺体の処理を考えなくていいことを考えても、安楽死の方法としてこの上ない。
しかし、優馬たちの使命は魂の救済ではない。「命を救うこと」である。
命を奪うことは、安楽死の是非を別として、少なくともポンコツヒーローズの使命には真っ向から反する。
「紹也、地獄の業火によって、俺らがいる場所から自殺志願者がいる場所までの木々を全て焼き払ってくれ。俺らと自殺志願者との間に一本の道を作るイメージだ」
「道なきところに道を作る」だとか「生還のための虹の橋を架ける」と表現すれば聞こえはいいかもしれない。
しかし、その本質は不要な森林破壊である。樹海にいる人を「連れ出す」方法には、間違いなくもっと穏当な方法が存在している。
「過激っすね」
「お前が言うな!」
馬鹿と鋏は使いようとはいうが、地獄の業火の使い道は、破壊しかない。どんなに綺麗に計画に当てはめたとしても、必ず余計な犠牲を伴う。
いくら「自殺の名所」という忌忌しい響きの樹海であれ、好き勝手に燃やすことが許されるとは思わない。
しかし、やむをえない。
「っていうか、俺、そんな器用なことができるんっすか? 自殺志願者自体は燃やしちゃダメっすよね?」
「もちろん」
「樹海全てを燃やし尽くすのは?」
「もっとダメだ」
「俺、地獄の業火をコントロールする自信ないっすよ?」
「とにかく、やってみるしかないだろ」
「もし失敗して余計なものを燃やしちゃったらどうするんっすか?」
「ずらかる」
「えーっ!?」
「それとも警察が来るのを待って、放火犯として捕まるか?」
「いやいやいや! そうじゃないっす! そうじゃなくて…」
「地獄の業火」という物騒な能力を使うことに躊躇する気持ちは分かる。
しかし、約10年前、神様にそんな物騒な能力をリクエストしたのは他でもない紹也自身である。中二当時の破壊衝動がそのまま残っていればそれはそれで困るが、少しくらいは当時の無鉄砲さが残っていて欲しいものである。
「大丈夫です。紹也さんならできますよ」
屈託のない笑顔の美衣愛が、紹也の背中を押した。
おそらく美衣愛自身、背中を押した先にある場所が果たして「大丈夫」な場所なのかは分かっていない。
「樹海が大火事になってもいいんっすかね?」
「大丈夫ですよ」
もはや美衣愛が何を指して「大丈夫」と言っているのかすら分からない。
しかし、これで錦の御旗は手に入ったも同然だ。なぜなら、可愛いは正義であるがゆえに、美衣愛は正義だから。
今月、彼女と同棲を始めます。
付き合った後に知ったのですが、彼女も小説を書くことが趣味ということなので、休みの日はお互いの部屋で小説を書くことになりそうです。早くも家庭内別居。




