薬師通洋は鳥の知らせを聞いた(2)
世にも奇妙な首長人間ショーをお見せする前に、優馬が羞恥心を捨てなければならない「いざというとき」が訪れた経緯について説明する必要があるだろう。
Xデーは文字通りの「見切り発車」によって幕を開けた。
「紹也さん、運転お上手なんですね」
「いやいや、普通っすよ。むしろ普段あまり運転しないから、下手な方っすよ」
「いえいえ。紹也さん、見た目がワイルドなので、もっとワイルドな運転をすると思ってました」
「人を見た目で判断しないでくださいよ。俺、安全運転が信条っすから」
「うふふ。頼もしいですね」
運転席と助手席で仲睦まじげに会話する2人に対し、後部座席から鋭い視線が飛ぶ。
ミラーに映るおっかない双眸に気付いた美衣愛が、飛び上がるようにして反応する。
「うわあ! 優馬さん、どうして睨んでるんですか!?」
美衣愛には優馬の恋心が分からないのか。はたまた男の嫉妬というものが分からないのか。どちらにしろ美衣愛の鈍さは罪である。
「別に睨んでないよ。微笑ましいな、と思って見てただけさ」
「微笑ましい…ですか?」
美衣愛がぽかんと口を開ける。
この鈍さが犯罪的に可愛いから困る。
「今日は晴れて最高の天気っすね。樹海でピクニックでもしましょうか」
紹也がサラリと恐ろしいことを口にした。
ゴクリと美衣愛が唾を飲む音が聞こえる。おそらく「ピクニック」という単語からお弁当を想像したのだろう。
「紹也、お前はバカか。樹海は自殺の名所だぞ。ピクニックだなんて縁起でもない」
優馬がミラーを通して再び睨みつけると、紹也はケタケタと笑った。
「冗談っすよ。お化けにお弁当を横取りされちゃったらたまったもんじゃないっすからね」
「…お化け……ですか? ジュカイという場所にはお化けがいるのですか?」
美衣愛の声がかすかに震える。
「美衣愛ちゃん、お化けが怖いんっすか?」
「は…はい…。私、小さい頃からお化けが怖くて……。未だに一人で寝るときにはぬいぐるみを抱っこして寝てます」
「え!? 美衣愛ちゃん、今でもぬいぐるみと一緒に寝てるんっすか?」
「はい。恥ずかしながら。4歳の頃から大事にしているティディーベアで、もう古くてボロボロで目も取れちゃってるんですけど…」
「目が取れたティディーベアってお化けより怖くないっすか!?…っうわあ!」
紹也が突然大きな声を上げたのは、決してお化けが苦手な美衣愛を驚かせるためではない。
背後の席にいた優馬が、紹也の運転席の座椅子を蹴飛ばしたためである。
「紹也、ふざけてる場合じゃないぞ! 樹海にはピクニックに行くわけでも肝試しに行くわけでもないからな!」
「…じゃあ、何のために行くんっすか?」
優馬は即答できなかった。
レンタカーを借り、4人で樹海に向けて出発したものの、肝心の、樹海で何をするのかを一切決めていなかったのである。
「おい、誰か案はないか? 俺らの能力を使った樹海での人命救助の方法について」
優馬の問いかけに、誰も答える者はなかった。まさか本気でピクニックに行くつもりだった者はいなかったとは思うが、使えない能力を使ってどのように人の命を救うかについてを本気で考えた者もいなかったのだろう。
最安値で探したレンタカーは2つも3つも古い型のミニバンであり、平坦なはずの高速道路の道でも大きく揺れる。さらに、目の前では紹也と美衣愛がまるで後部座席が存在しないスポーツカーでのドライブデートのごとき様相である。
お世辞にも思考をまとめるのにふさわしい環境とは言えないが、樹海に到着する前に何らかの方法を考えなければなるまい。
優馬にとって4人の中でもっとも頼れるのは、おそらく自分自身である。
優馬は4人のポンコツヒーローの能力を余すことなく活用し、人命救助という一枚の絵を作り上げるという究極難度のパズルに、いささか憂鬱な気分で取り掛かった。
ジュゴンは頭の悪い生き物です。イルカの脳みそとジュゴンの脳みそを比較すると、イルカの脳みそはしわしわなのにジュゴンの脳みそはつるつるしています。
ジュゴンは海草しか食べません。海藻ではなく、海草です。だから、水族館でジュゴンを飼育するためには、ジュゴンのために海草を育てる専門の人を雇わなければならないので、ジュゴンの飼育費用は水族館の中でもダントツです。
あとがきに何を書いていいのか分からなかったので、とりあえずジュゴンについて書いてみました。