星のジュース
”一晩、一緒にいるから”って、心配してくれた友達の裕子。
”何かあったらすぐ 携帯で呼び出せよ” 友達以上恋人未満の信二。
今思えば、裕子についていてもらえばよかった。
大学生の私は、一人暮らしで病気の時が一番困るだろうと思ってた。
幸い2年生になる今まで、風邪すらひかなかったけど。
37度5分の熱を出した私は、”このくらいなら食べて、眠れば治る”と思っていた。
甘かった。夜、10時過ぎに一旦起きて、熱を測ると、39度近くまであがっていた。
ノドはカラカラ。水が飲みたいけど、ベッドから出ると寒い。息が苦しい感じがする。
起き上がるだけでフラフラするし。
とにかく、裕子に連絡しようとスマホに手をのばすが、生憎の電池切れ。充電しないと。
でも、充電器まで行くまでで、倒れそうだ。
っていうか、体がだるくて、まずベッドから起き上がる事が出来ない。
結局、そのまま、また、寝た。
どのくらい寝たんだろう。最初、寒かったはずなのに、今はアツくて起きた。
母さんが、心配そうに私のおでこに手を当て、
「まだ熱、下がらないわね。今夜はお薬飲みましょうね」
母さんは、私を抱き起した。気がつくと、二人で宙に浮いていた。
私もいつのまにか、長い髪をおさげにしてた小学生の私になってる。
”そうか、タイムスリップしたんだ”
「綾香、どのお星さまが 欲しい?」
「えっと、あの二つ並んだ星」
母さん、手を伸ばしてその星をとった。簡単にとれるものなんだ。
それとも、あの”ネコ型ロボット”に、道具でも借りたのかな。
不思議に思っていて、やっと気がついた。
これは、夢なんだ。気がつくとベッドにもどっていた。
母さんは、白いトゲトゲついた丸い星(?)を 大き目のコップにいれ、
コツンとテーブルに軽くあてた。
白い星は、小さな金平糖のようなものになって、コップの中におさまってる。
「あと、これがお薬ね。苦くないから」
そう言いながら、星型の平たい黄色の星(?)を、手に持つとぎゅーっと絞った。
星から、汁がでてきた。
覗きこむと、黄色いジュースの中に白いコンペイトウが浮いてた。
「さ、これを飲むと、熱も下がるから」
と母さんに、飲ませてもらった。
ジュースは、ハチミツレモン味、金平糖は、甘くて冷たかった。
私は口の中も、ノドも胸の苦しいのもスッキリした。
宇宙を飲み込んだら、こういう気分になるのね。
いったいどういう事だ。って思ってるうち、息をするのが楽になった。
母さんが私のおでこに手をのせた。ヒヤっとした手が気持ちよかった。
「これで少し熱が下がるといいけど」
母さんの言葉を夢見心地で聞いたのが最後。
次の朝、起きると熱もすっかり下がり、頭がハッキリしてきた。
それにしても、風邪をひいたとはいえ、メルヘンな夢をみた。
母さんは、私が小5の時に事故で、もうこの世にはいない。
私、風邪で具合悪くて心細かった。だから夢で母さんに助けを求めたんだ。
母さんの事を思い出し、ちょっと涙が出た。
風邪をひいた時や、具合の悪い時、母さん、いつもおいしいジュースを作ってくれた。
自家製のハチミツレモンジュース。
起き上がって、フと横のテーブルを見ると、
あの夢に出て来たジュースが、コップに少しだけ残っていた。まさか・・
ためらわずに飲みほした。これは、母さんの味だ。
私は、また涙がボロボロでてきた。鼻水もでてきた。
原材料が星の風邪薬は、こんな副作用があるんだ。母さん。




