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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十五章【文化祭までのカウントダウン】
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「もう帰るよ」

腕の力を緩めながら、朝斗さんが言った。


(あ、まただ…――――)


抱き締めてられていたらドキドキして心臓が潰れそうになって…“もう無理、もう無理”って思うくせに、離された瞬間に…何か、物足りなさを感じてる。


(――――自分の気持ちが矛盾してる…。)


「優妃、どうした?」

「いえ…」

朝斗さんに悟られないように、私は笑顔を向ける。

(これは、私がわがままなの?―――この気持ちは何?)


「玄関まで送りますね」


階段を降りながら、私はふと気になったことを聞く。

「そういえば、朝斗さんのクラスは何をやるんですか?」

「え…」

すんなり答えてくれると思っていたが、朝斗さんが少し戸惑った反応をした。

そして、一息ついた後に低めの声調(トーン)で言った。

「演劇…。でも、来なくていいから」

「え、行きますよ!朝斗さんは何の役を?」

「…―――言いたくない。」

お邪魔しました、とにこやかに母に挨拶して朝斗さんが家を出る。


「えー、知りたいです!」

どうしても知りたくて、何とか聞き出そうと、私も朝斗さんの後を追って玄関を出る。

「朝斗さんなら何だって素敵に決まって…っ」

次の瞬間、朝斗さんが唇を塞いで…それ以上は聞けなくなった。


「優妃、また明日」

玄関のドアにもたれかかり呆然と立ち尽くす私に、朝斗さんはなぜか満足気にニッコリと微笑んで帰っていった。


(朝斗さん…っ、不意打ちだと心臓止まっちゃいますからっ!)

真っ赤になりながら口元を押さえて、わなわなと身体を震わせる。



――――まんまとキスで誤魔化されたことに気が付いたのは、寝る直前のことだった。


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