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朝斗さんとは、あの日から毎朝、高校の最寄り駅で降りてから一緒に登校するようになった。
「ほら、あの人!今日も超かっこいいー」
「でも、彼女いるんでしょ?最近よく見かける女いるし」
「あー、あれ?妹とかじゃないの?」
「なるほどねー!そういや、そうかも!」
他校の女子高生が、改札を抜けた先に、壁に持たれて立っている朝斗さんを見つめながらキャピキャピと話している。
(妹じゃないです!“彼女”です!)
心の中でそうツッコんで、私は朝斗さんの待つ所まで近付いていく。
朝斗さんは私が呼び掛けるまで、絶対顔を上げてくれない。
――――だから、この瞬間は、いまだに緊張する。
「…あ、朝斗さん。おはようございます」
私が挨拶すると、すぐに顔をあげて朝斗さんは微笑んでくれる。
「おはよ」
朝から朝斗さんを独り占めできる贅沢な状況。
(幸せ……だなぁ)
「行こっか」
「はい!」
(でも…彼女というより、従者みたいだなー…私…)
そんなことを思ってたら、朝斗さんが手を伸ばしてくれた。
「手、繋いでも?」
少し照れたように、朝斗さんが言った。
「あ、はい!」
(嬉しいです。くすぐったいです。――朝から幸せ過ぎます)
私が笑うと、朝斗さんも笑う。
(ずっと…ずっと…続きますように―――)
私が朝斗さんの隣にいるときに、祈っている密かなお願い。
(この瞬間が、ずっと…――――)




