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「ところで一琉、部活って何部なの?」
家に着くところで、私はふと思い出して訊ねた。
「は?」
呆れた顔で、一琉がこちらを向く。
「優妃…知らずに…来たわけ?」
「え?うん。」
はぁ…と一息ついて、一琉がボソッと言った。
「弓道部…」
「え、弓道部っ!?すごいね!―――春の大会で優勝したって聞いたよ?」
(高校に入ってから始めたのに、優勝したってことだよね?)
「――――遅…」
「ん?」
一琉がボソッと何か呟いたけど、私には聞こえなかった。
聞き返した私を華麗にスルーして、一琉が言う。
「…モチベーション下がったし、辞めようと思ったんだけど」
「え、そういえばなんで?急に辞めるなんて…」
私がそう訪ねると、なんでそこまで聞くわけ…というように一琉が顔をしかめる。
(―――聞いちゃダメなんだ…?)
私は一琉の機嫌を窺うように、じっと一琉を見る。
「優妃が応援来てくれるなら、続けようかな」
甘えるような声で、不意に一琉が言った。
「え?…私、完全に部外者だし」
(応援…って…。―――まぁ、観てみたいけど…でも…)
「じゃあ辞める」
スタスタと先を歩きながら、一琉が言う。
「え、ちょっと…それは困るってば…」
(迪香ちゃんに、なんて言われるか…―――)
「来月、大会あるから絶対来て」
家の前に着いて、一琉が私をまっすぐ見つめてそう言うと、じゃあねと家の中へと入っていった。
(言い逃げだよ…それ…)
「ちょっと一琉…っ」
私が呼び掛けると、ドアを閉める直前で振り返った一琉がニコッと微笑んだ。
(…一琉が…優しいと…調子狂うよ…っ)




