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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十四章【悪者】
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「一琉と…少し二人で話をさせて貰えませんか?」


恐る恐るそうお願いすると、部長は快く部屋から出ていってくれた。迪香ちゃんは部長に促され仕方なさそうに部屋を出ていく。


「…昨晩、“二度と来ないで”ってキレてた奴が、自分からこんなところにまで来るなんて…―――優妃って本当にバカだよね」


一琉はこちらを見ようとしない。下を向いたまま、いつものように毒づく。


「馬鹿はどっちよ…。一琉が心配かけるからでしょ…」

私がそう言い返すと、驚いたように一琉が私を見た。


「心配?優妃が…?僕の?」

「そうだよ、折角才能あるって皆に認められてるんだから、辞めないで…続けて?」


(まぁ…何の部活なのか、いまいち分かってないんだけどね…)


幼馴染みというだけで、私は一琉のことを何も知らないでいた。

知ろうとしていなかったのは私…―――。

もっと早く知っていたら、違う未来があったのかもしれなかったのに…。


(本当に、酷いことをしてきた…よね―――。)


「…今までごめん…。」


「は?―――なに急に…」


「私の為に、色々してくれてたの知らなくて…一琉のこと“悪者”扱いしてた…。」


「マネージャーが何言ったのか知らないけど、」

はぁ…とため息をついて、一琉が頭を掻きながら言う。


「優妃の為に、してたわけじゃないから。謝らないでよ」


「一琉、」

(そうやって、いつも私に嫌われるように…してたんだ…)


あまのじゃくな一琉の言葉は、“気にしないで”と言ってるように聴こえた。


「ありがと」

私が一琉に微笑むと、一琉が意外そうに目を見開く。


「ねぇ、優妃…」

一琉が私の両手をそっと握った。触れられても、不思議と今までみたいな嫌悪感はなかった。


「優妃、僕の気持ちは初めて会ったときからずっと変わってなかったよ…?」


いつもの一琉には考えられないような、優しく…甘えるような声。

私は幼い頃の、優しかった一琉を思い出した。



「うん…ごめん」

(私が…変わってしまったんだよね…)

朝斗さんへの想いは、消えない。だから一琉の気持ちには応えられない。


「だから昨日、付き合おって言ったのは…本気だったし。好きだったからキスした…」


「うん…―――ごめん」

私が謝ると、一琉がフッと笑った。

そして手を離して座っていた椅子から立ち上がると、私から目をそらす。


「はぁ…―ー――油断したな…。まさか高校を変えて僕から逃げるなんて思ってなかった。ずっと僕の隣にいると思ってたのに」


深いため息をついた後、冗談めいた口調で一琉が言った。


「…―――ごめ「謝るなよ…、余計惨めになる」

謝りかけた私に、一琉が被せるように言う。


「…あーぁ、優妃の良さは僕だけが知ってれば良かったのに。」


「え…?」


「早馬朝斗、本当…()なヤツ」


「嫌なヤツじゃないってば!私は…―ー」

朝斗さんが好きなんだから…と言いかけた私の口を、一琉がバシッと手で塞いだ。


「わかってるよ、言わなくても。今度言おうとしたらまた唇塞ぐからね?」


「ふぐっ」

(それって…っ、キスするってこと?)



「今日は一緒に帰ろう?いいでしょ、優妃」


私の口から手を離して、一琉がニコリと笑う。

一琉がそんな風に笑うのを見たのは、すごく久し振りだった。

やっぱり、…天使みたい。


「優妃、聞いてる?」

天使、じゃなかった…一琉が見とれてた私に顔を近づけて訊ねる。


「あ、えっと…部活は?」

「サボる!だって今日は特別な日だから」

こんなご機嫌な一琉…、初めて見たかもー―…。


「特別って何が?」

私が首を傾げると、一琉がムッとした顔になる。


「言わないよ…この鈍感女」


「どっ」

(鈍感女~?ひどい…っ!なんでそうなるのよ?)


「やっぱり一琉、優しくない」

私がボソッと言うと、一琉が一言呟いた。

「バカ」

「ば、バカって…」


だけど、今日の「バカ」は…そう言った一琉の表情は…愛情たっぷりがこもっていて…、私はそれ以上何も言えなくなった。




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