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迪香ちゃんが、話してくれた内容は私の知らない…“牧 一琉”だった。
中学時代、虐められそうになっていた私を…助けるためにずっと傍に居たこと。
周りと接触させないために、わざと酷いことを言って遠ざけようとしていたこと。
私が傷付かないように、わざと自分が私に酷いことを言って…自分だけが“悪者”になるように仕向けたこと。
女子達の僻み、妬みの声が聞こえないように…一琉以外の人間から私が…傷付かないように…。
「何…それ…」
衝撃でー―――声が…心が…震えた。
(頼んでない…そんなこと…)
私が女子達に虐められそうになっていたのは、一琉が隣に居たからだ。
一琉が私から離れたら、女友達もできたはずだ。
「何…勝手に…」
涙腺が弛んで、勝手に涙がこぼれ落ちる。
(そんなの知らないし…知りたくなかった)
一琉は私の幼馴染みだから。それ以上でもそれ以下でもない。
(今さら真実を知って、私にどうしろというの?)
朝斗さんと付き合い始めたときも、“やめておけ”って、“騙されてるんだよ”って。
『心配なんてしてないよ。優妃って本当にオメデタイ頭してるね』
そう言って…寂しそうに笑ってた。
私が朝斗さんのことで悩んで…勝手に傷付いて…落ち込んでると、“だから言ったのに”って呆れてた。
『優妃には僕がいる。僕だけは優妃の傍にいるから、…ずっと、ね』
そう言って優しく微笑んだ。
いつも、そうやって…言い聞かせるような口調で。
『また、悩んでる…。懲りないね優妃』
私…気付いてなかった…。
一琉はいつも、私の傍に居たこと。
――――やっぱり、一琉の言う通りだ。
(ねぇ…一琉…、私“優妃”のこと…分かってなかった…)
貴方に護られてたことも、いつも見守っていてくれたことも…。
他人から聞くまで、気が付かなかったよ…。




