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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十三章【不安定なこの心】
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多分、今まで生きてきた中で今いちばんドキドキしてる。


四時限目が終わって、私はお弁当を食べる前に一人、二年生の教室へと向かっていた。



「あれ?優妃ちゃん」

琳護先輩がいつもの調子で私に声をかけてくれた。その笑顔で緊張が少しだけほぐれた。


「あの…あの…、朝斗さん…居ますか?」

「ハイハイ分かってるよ!今呼んでくるから待っててな~」

そう言いながら、教室へと入っていく琳護先輩。

その言動から、もしかしたら朝斗さんから何か聞いていたのかもしれないと思った。

「ありがとうございます」

私は、そっとお礼を言い、ドキドキしながら朝斗さんを待った。



「何?」

暫くして、朝斗さんが琳護先輩に連れられて廊下へと出てきてくれた。

周りの…ギャラリーの視線が痛い。


「すみません、少しだけお時間貰えませんか?」

「悪いけど、あまり時間ないから」

目を合わせずに、朝斗さんは素っ気なく言った。


「………」

(怒ってる、よね…。やっぱり…)

だけど私は今、朝斗さん会いたくて…きちんと話をしたくてここに来たんだから…と勇気を出して告白する。


「朝斗さん。私―――朝斗さんのことが好きです」

「そう。…それで?」

「…それで…って…。」

まさかの返しに、私は絶句してしまった。

(取りつく島もない。)


いつも優しかった朝斗さんが、ひどく冷たくて…泣きそうになる。


「朝斗さん…もう、ダメですか?」

「何が?」


「私…別れたくないです…」

(どうしよう…涙が出そう…)


泣かないって決意してここに来たはずなのに、朝斗さんの言葉が冷たくて、私の心はズタズタに傷付いていく。



「あのさ、」

俯いて、ぎゅっと涙を堪えていた私の肩を抱き寄せるようにして琳護先輩が隣に立った。


「優妃ちゃん。朝斗のことはもう忘れて、俺と付き合おうよ」

「は?」

この上なく不機嫌そうな、朝斗さんの声が聞こえてきたが、私は驚いて琳護先輩を凝視していた。


「朝斗はもう、君のことどーでもいいってさ。だから付き合うのは難しいよ。ね、朝斗?」

「え…」

(どーでも…いい…って…)

琳護先輩の言葉に、ショックを受ける。


「俺ならあまりに可愛いからって昨日みたいに不意打ちでキスなんかしないし」

「おい琳護、黙れ」


(そっか…あまりに…――――ん?)



「泣かれたらどうしたらいいのか分からなくて、つい別れるとか言っちゃって、その後ひたすら後悔とかしないし」

(え…?え…?)


「それって…―――「ちょっと来て」

琳護先輩に、その話の内容を確かめようとした私の腕を、朝斗さんが無理矢理引いて、琳護先輩から引き離す。


「朝斗さん…今の琳護先輩の話って…」

ぐんぐん前を向いたまま早足で歩く朝斗さんに、腕を引かれたまま私は話し掛ける。


「これ以上、みっともないところ見せたくなかったんだけど」

近くの空き教室に入ると、苛立った口調で朝斗さんがボソッと言った。


(え?)


「どうしたらいいのか分からなくなるんだよ…優妃が泣くと」

顔を片手で隠すようにして、恥ずかしさを誤魔化すように朝斗さんが言った。


「朝斗さん…」


「だからそんな嫌なら別れようと思ったんだよ…っ」

「私…別れるのが嫌です…」

「だから、そうやって…―――「す、すみませんっ」

一応謝ってから、私は朝斗さんに思い切り抱き付いた。

背中に腕を回してしがみつくみたいな…やっぱり色気のない抱擁…だったけど。

言葉で伝えるより、伝わるんじゃないかと…思い切った行動に出た。


(朝斗さん…怒るかな…嫌がってるかな…どうしよう勢いでこんなことして…―――この後のこと何も考えて無かった…)


「優妃…顔上げて?」

「………」

朝斗さんの声色が、いつも通り優しくなっていた。

私は真っ赤になった顔を、言われた通り上げる。


「好きだ」

朝斗さんが顔を近付けて、私にだけ聴こえる声でそう言った。頬にそっと、朝斗さんが触れる。―――私はそっと目を閉じた。


「―――っん…」

優しい口付けがゆっくり落ちてきて、私はまた泣いてしまった。


(どうしよう…幸せ過ぎて…涙が…止まんない…)



「しょっぱ…」

唇を離した朝斗さんが、悪戯な笑顔で言った。


「すみま…――っん」

謝ろうとした私の唇を、朝斗さんが塞ぐ。


(好きです…好きです朝斗さん…)


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