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(あれ…?)
気が付くと、保健室のベッドの上にいた私は驚いて上半身を起こす。随分寝ていたのか、気が付いたら身体のダルさはなくなっていた。
つーっと、涙が頬を伝った。
(私…寝ながら泣いてた…?)
慌てて涙を拭っていると、
「あら?気が付いた?」
保健室の先生が、仕切りカーテンを開いて顔を出した。
「あ、はい…」
「貴女、廊下で倒れたらしいわよ?」
「え?」
「で、同じクラスの男子が運んできてくれたのよ」
「え…」
(同じクラスの…男子が…?私を?―――誰だろう…)
そう思いながらも、頭には一人しか浮かばなかった。
「名前は忘れちゃったけど」
保健の先生が肩を竦めて微笑む。
「そう…ですか…」
「熱はなさそうね。―――二時間は寝てたわ。もうすぐ四時限目が始まるけどどうする?」
「あ、出ます。」
「そう。無理しないようにね」
「はい。…失礼しました」
保健室を出て、私は教室へと戻る。
朝斗さんに会えたと思ったのに…。
朝斗さんに自分の気持ちを伝えたと思ったのに…。
――――あれは、全部夢だったの…?
『好きだよ…』
あの声も、言葉も…全部?…―――夢だった?
(随分都合のいい夢…―ーだったな…。夢だからか…)
ふっと口元が緩む。
(だいぶ勇気出してたし、現実なら良かったのになぁ…――)
そんなことを思いながら教室に戻ると、教室には誰もいなかった。
(あれ?)
教室に貼られていた時間割を見て、三時限目と四時限目が家庭科だったことを知る。
(あぁ…私―――何も考えずにここまで来てたんだ…)




