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「ちょっと優妃っ、大丈夫なの?」
ホームルームが終わって一時限目が始まる前に、私は教室に着いた。
「うん、大丈夫」
「でも、顔赤いし熱あるんじゃないの?」
翠ちゃんが心配そうな表情で私に言う。
「朝斗さんに会ってくる…」
「は?」
うわ言のように呟く私に、翠ちゃんが目を丸くする。
「今、会いたいの…」
「ちょっと待ちなよ、もうすぐ一時限目始まるし…早馬先輩だって授業でしょうが」
「…そっか」
「優妃?どうしたの本当に?」
翠ちゃんにそう言われても、私は何も答えられなかった。
「………ごめんやっぱり私、保健室行くね…」
「え?あ、じゃあ私付き添うから」
「ありがとう。でも、一人で平気だよ」
「そう?…無理しないでよ?」
「うん」
教室を出て、保健室へと向かう。
足元がふらつく。多分、また…熱が上がってきた。
(お昼になったら、会えるよね…)
ふっと意識が遠退くところで、誰かが私を抱き留めてくれた。
「あ…」
(朝斗さん…?)
私、朝斗さんに言いたいことが…伝えたいことが…あったんです。
私、朝斗さんが好きです。本当に…好きです。
だけど、こんな気持ちは初めてで…戸惑うことばかりで…。キスされたときなんて、もうキャパオーバーで…。
でも。
でも、本当は…――――
本当は―――――…
幸せ過ぎて、怖かったんです。ずっと、ずっと。
朝斗さんが私を…好きになってくれて。
私に笑顔を見せてくれて。
私だけを“特別”だって言ってくれて。
自分に自信がなくて、ずっとずっと…幸せだと思えば思うほど、怖くて…怖くて。
だけど、別れを告げられて…朝斗さんを失なうことの方がもっと怖いって…気づきました。
もう、手遅れですか?
もう、ダメですか?
朝斗さん…。ー―ー何か…言ってくださいよ…。
どうして何も言ってくれないんですか?
「好きだよ…」
囁くような、優しい声が聞こえてきた気がした。
その言葉に、私は涙が止まらなくなった。
私も…好きです。朝斗さん…。




