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「―――な…」
私は全力で一琉の胸を押して唇を離す。
「…にすんの…っ」
唇をごしごし擦る。―――…こんな感触、今すぐ忘れるように。
「別にいいじゃん。もう、“初めて”ってわけじゃないんだし」
一琉の一言で私の怒りは一気に沸点に達した。
「…ダイッキライ!!」
他人にこんな風に感情をぶつけたのは、初めてだった。
「ごめん。そんな怒らないでよ…。今のは言い過ぎた」
「大嫌い、一琉なんて…っ」
「優妃…、」
「今すぐ出てって!もう二度と来ないで」
(何も聞きたくない。もう、関わりたくない)
「優妃、僕は…―ー――」
「出てって!」
私が一琉を部屋の外へ押し出すと、母が私の部屋の前まで来ていた。
「ちょっと優妃、なに大声出して!それに一琉くんになんてこと言うのっ!?謝りなさい!!」
ヒステリックに叫ぶ母、何も知らないのに私が悪いと決めつける母が、余計に私を苛立たせる。
「いえ、大丈夫です。僕、帰ります。お邪魔しました」
一琉が母に頭を下げて、さっさと一階へと降りていく。
「一琉くん!ごめんなさいね、優妃が酷いこと言って―――」
母も一琉の後を追うように一階へと降りていった。
(お母さんは、なにも知らないくせに…)
私の気持ちも、一琉が私にしてきたことも…、今、一琉が何したのかも――――…。
(それなのに、いつも…“一琉の味方”になる…)
私の気持ちなんて、誰も分かってくれない。
私の話なんて、誰も聞いてくれない。
(助けて…誰かー―ー…)
私は部屋のドアにもたれ掛かるようにしてしゃがみこむ。
『電話くれただけで、嬉しい。だから何か言いたいことあったんなら、俺何でも聞くし、…てか聞きたいから』
(助けて…一護くん…――――)




