76
「優妃、別れた?」
一歩、また一歩…―ー一琉が私に近付いてくる。
(ヤメテ…入ってこないで…)
「ねぇ…黙ってたら分からないんだけど?」
意地悪な口調とは裏腹に、優しく…私の身体をそっと抱き締める。
(ヤメテ…触らないで…)
「優妃には、僕がいるから――――大丈夫だから」
(違う…私は…――――)
「朝斗さんが…好き、なの…」
震える声で、私は気持ちを口にする。
「まだそんなこと言ってるの?いい加減、現実見なよ」
一琉が私を抱き締める腕の力を強める。
「優妃とアイツじゃ、何もかも合ってない。合うはずないんだよ」
「どうしたらいい?―――一琉なら知ってるんでしょ?ねぇ…教えて…私はどうしたら朝斗さんに近付ける?」
一琉の腕から逃れようと、身体をよじりながら私は一琉を見上げる。
「諦めたら?」
いつも通り、一琉は私を冷めた目で見下ろしている。
「え?」
(諦める…?この気持ちを?…朝斗さんへの、この気持ちを?)
「それなら協力出来る」
「………?」
「付き合お?僕と」
一琉の言った言葉の意味を、頭の中で反芻させる。
(付き合う?…一琉と?)
「………何…、やめてよ…こんなときにそんな冗「本気だけど?」
突然の発言に驚いた私は、いつの間にか涙が止まっていた。
一琉はいつになく真剣な表情で私を見つめている。
(本気?…なの?)
「僕なら優妃を一人にしない」
「………」
確かに、一琉はずっと私と一緒にいてくれた。
だけど…それは…―――私が望んだことではなかった。
「一琉の気持ちは有り難いけど、でもごめん。」
身体を離して、私は一琉を見上げる。
「私は、一琉のこと…幼馴染みとしか、見れない」
「…大事にしてきたのに」
一琉が、ボソッとそう言って顔を近づけると、抱き締めていた腕を頭の後ろへ回し、そのまま私の唇に口付けした。
(な…っ)




