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『別れよう』
朝斗さんはそう言った。そう言って一人駅のホームへ消えていった。
『別れよう』と言われた瞬間、足元に大きな落とし穴が出来た気がした。
(やっぱダメなんだ…)
私は顔を覆うとその場にしゃがみこんだ。
その後どうやって家まで着いたのか。
――――私は…気が付いたら自分の部屋にいた。
『別れよう』
朝斗さんの言葉が何度も、何度も自分の心を抉る。
(好きなのに…―――)
どうして私はこんなに上手くいかないんだろう。
――――朝斗さんを傷付けたのは私。
私が咄嗟に腕を払ってしまったから。
まるで朝斗さんを拒絶するかのように…。
(好きなのに…―――)
涙を流す立場ではないと分かっているのに勝手に涙がこぼれ出す。
ポロポロぽろぽろと、朝斗さんへの想いが後から溢れ出す。
「う…っく」
私に笑いかけてくれる朝斗さん、いつだって私の気持ちを優先してくれていた朝斗さん。
(突然のキスで、それが…全部不安になった)
好き過ぎて―――…、私ばかりが追い付けなくて。
私ばかりが余裕なくて。
イッパイイッパイで。
(朝斗さんに、あきられた…―――)
部屋が開く気配がして、私はドアを振り返る。
「だから言ったのに…―ー」
私の泣き顔を見て、一琉がため息混じりに言った。




