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早速今日の放課後から、一緒に帰ることになり、二年生の昇降口で待っていた私は、帰っていく先輩達の視線を痛いほど浴びた。
「本当に、いい度胸してるよね」
「そうじゃなきゃ、早馬先輩と並んで歩けないでしょー?」
「だね、私なら無理だもん…あれで“彼女です”なんて…ねぇ?」
(聞こえない聞こえない。)
―――私を嘲笑う声なんて、嫉妬の声なんて、私には関係ない。
ギュッと唇を噛みしめて、何度も自分に言い聞かせる。
「ごめんな、待たせて」
朝斗さんの声で顔を上げると、彼が笑顔で私を見つめていた。
「いえ。お疲れ様でした」
文化祭の準備で忙しい朝斗さんを待っていた私はそう言葉をかけた。
朝斗さんは凄く嬉しそうに微笑んで、そんな表情を見たら、さっきまでの突き刺さった視線もすんなり受け流すことができた。
「優妃、ありがとう」
「え?」
突然お礼を言われて、私は朝斗さんを見上げる。
「…少し無理させてるの、分かってんだけど」
朝斗さんが口元を手で隠して、優しく私を見つめる。
「やっぱいいな、こうして一緒に帰る時間」
(朝斗さん…)
そんな風に気持ちを伝えて貰えたのが嬉しくて、私も気持ちを伝えようと思った。
「私も…嬉しいです」
足元を見ながらそう言うのが精一杯で、口に出したら一気に身体の熱が上がった。
「そか…。なら良かった」
朝斗さんの優しい声が、耳をくすぐる。
「あ…」
ふと隣を歩く朝斗さんの肩に私の頭が軽く触れてしまった。
「―――すみま…」
慌てて少し距離を空けようとした私を、朝斗さんが引き寄せた。
「………っ」
(え…―――――?)
それはあまりに突然で、私は立ち止まったまま動けなくなった。
(今…キスした…?)




