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『優妃、どうだった?』
その日の夜、朝斗さんから電話が来た。
「へ?―――えっと…どう、とは…?」
抽象的な聞き方に、私は何を聞かれたのか分からず答えに困る。
『衣装の生地選び、してきたんだろ?逢沢さんと』
「あぁ、はい。可愛いの見繕って、取り敢えず買いました」
『――――そか。良かったな』
朝斗さんは私に合わせてくれる。
『大切な彼女だから、優妃が嫌ならずっと触れないよ。優妃が嫌がることは何もしないって誓う。』
以前に宣言された通り、朝斗さんは私には触れない。
朝や帰りも、私と一緒にならないようにしてくれる。
――――朝斗さんの隣を自信をもって歩けるようになるまで、一緒に登下校はしたくないと言ったのは私で、朝斗さんはそれを聞き入れてくれたのだ。
(―――だけど、その日はいつ来るのだろう…)
朝斗さんに、甘やかされている。いや、…―――甘えすぎている。
(私ばかりがこんなんで…朝斗さんはそれで幸せなのかな?)
『―――恋愛ってさ、タイミングもあると思うんだ。』
翠ちゃんが、今日話してくれた言葉が頭をよぎる。
私が朝斗さんと付き合いだしたのは、本当に思いがけないタイミングだった。
(あの時…裏庭に朝斗さんが来なかったら?―――あんな風に強引に…告白されていなかったら?)
あの時の朝斗さんが、あの時の私が…――今の私達を作り出したんだ…。
『優妃?』
そんな偶然をしみじみと思い返していると、朝斗さんが私を現実に引き戻した。
「はい、何ですか?」
『明日、時間ある?昼、一緒に食おう?』
「あ、はい!分かりました!!」
私は自然と笑顔になってしまった。
(朝斗さんとランチ…!)
『あんたが向き合うべきは、一護じゃなくて自分が選んだ人でしょ』
――――翠ちゃんの言う通りだ。私は今、朝斗さんと向き合うべきだ。
彼の隣に自信を持って居られるように、ずっと傍に居られるように…。
『それでも気になったり、一護と仲良くしたいと思うなら早馬先輩と別れるべきだと思うわ』
(――――別れるなんて…考えられないもの…)




