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「落ち着いた?」
突然涙が溢れだした私を店の外へ連れ出してくれた翠ちゃんが、近くのベンチに並んで腰掛けて…涙が止まるのを待っていてくれた。
「うん。ごめん。ほんと、なんでもないから」
ぽろぽろと溢れる涙をようやく拭いきって、私は一呼吸置いて笑顔を見せた。
「………」
翠ちゃんが黙って、そんな私を切なそうに見つめる。
「―――恋愛ってさ、」
暫くお互い何も話さずにいたけれど、翠ちゃんが口を開いた。
「…タイミングとか、あると思うんだ」
「?」
翠ちゃんが何を言うのか、私は彼女の横顔を見つめて話し出すのを待った。
「付き合うタイミングって、思いがけない時とかあるよ。自分から言い出したんじゃなかったら、余計に。」
「タイミング…」
「…優妃が、一護に恋してたのも確かだと思う。…少なくとも、花火大会の時までは。だけど、あんたは今、早馬先輩と付き合ってる。それってつまりさ、そういうタイミングだったんじゃないの?」
「…………」
(タイミング…)
「別に責めてる訳じゃないよ。気持ちに正解なんてないし、マニュアル通りになんていかないんだからさ、心ってのは」
―――翠ちゃんの言ってることは何となく分かる。
あの日、朝斗さんと付き合うことにしたのは自分。
ずっと憧れてた朝斗さんに告白されて、一回断ったのを後悔したから…だから二回目に告白された時…私は朝斗さんと付き合いたいと思った。
朝斗さんが本気でなくても…それでも自分が好きだったんだからと。
「ただ…さっき思ったんだけど優妃もしかして…一護への気持ちも中途半端に残したまま、早馬先輩と付き合ってない?」
「え…」
「あんたが向き合うべきは、一護じゃなくて自分が選んだ人でしょ。だからまず、一護と少し距離を置いてみたら?」
「………」
「それでも気になったり、一護と仲良くしたいと思うなら早馬先輩と別れるべきだと思うわ」
(…知らないうちに、自分は一護くんへの恋心を友達としての好意だと変換しようとしていたのかな。それとも…―ー。)
『優妃のは、恋じゃないよ?ただの憧れ。』
『僕には分かるよ。優妃、絶対あいつと別れることになるから』
(あぁ…嫌だな…。なんで今、一琉の言葉なんて浮かんでしまったんだろ…)




