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「あ!早馬先輩がいる!!」
クラスの女子がそう小声で言って、こっそり指差した方を辿ると、
早馬朝斗先輩が綺麗な女の人と目の前を歩いていくところだった。
(あ…―――先輩…)
先輩を見たら、不思議とチクンと胸が痛んだ。
「はー、格好いいなー、早馬先輩!」
うっとりとしながら、クラスの女子の達が先輩を見つめている。
「また違う彼女かー、さすがモテ男だな」
いつの間にか、隣に時田くんが立っていた。
「もしかして香枝も、朝斗が好きなの?」
「えぇっ?ち、違うよ…。」
咄嗟にそんなことを口走っていた。
(…――――違う?違わないじゃない?)
心の中で、自分を嘲笑う。
私は先輩が好き。初めて見たときから、ずっと憧れてた。
早馬先輩は、皆の憧れで…私なんかが手の届かない人。手を伸ばしてはいけない人。
『付き合わない?』
あの時の言葉は、先輩の気まぐれで、
…ただ私をからかっただけで。
(――――だから忘れなきゃいけないのに)
付き合ってない私が、こんな気持ちになるのは図々しいって分かってる。
(――――だから忘れなきゃいけないのに)
『付き合わない?』
あの時、私が素直に頷いていたら、先輩の隣に私がいたのだろうか?
モヤモヤしている私の心に、花火のドンという地鳴りのような音が響いた。
私は花火を見上げた。つんとした胸の痛みを溢さないように――――。