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「こんな感じとか、どう?」
「………」
「優妃、」
気が付いたら手芸屋さんにいて、翠ちゃんが私の名前を呼んだ。
「あ…ごめん。聞いてなかった」
「――――これとか、これ。生地にしたらどうかって話」
「あ、うん。良いかも」
翠ちゃんが、手に持っていた生地に視線を落とし頷く。だけど、それは自分の意志ではなくてただ頷いただけだった。
「――――あー、ごめん…。私いま、」
「心ここにあらず、でしょ?見れば分かるわ!」
正直に話そうとした私に、翠ちゃんが、ため息混じりに言った。
「一護のこと?」
「うん…」
私は翠ちゃんに話すことにした。自分のズルさを。
「私、一護くんの気持ち…ね、夏休みに朝斗さんと話してるところ聞いてたから…何となく…知ってたんだ」
『じゃあ朝斗と付き合ってなかったとしても一護とは友達なんだ?』
あのときの…琳護先輩の言葉が、ずっと耳に残ってる。
「だけど、知らないふりして…友達続けようとしてた。」
(だって一護くんは、初めての男友達で特別で…)
――――手放したくない。
「だけど、それは一護くんを傷付けてる…んだよね?」
話してたら、胸がツキンと痛んだ。
「さぁ?それは分からない」
翠ちゃんが、他の生地にも手を伸ばしながら言った。
「アイツが傷付いてるかは知らない。でも、報われないのに…友達続けるのって結構キツいと思う。」
(うん…分かってる…)
「優妃は、一護のこと嫌いじゃないでしょ?」
翠ちゃんが、私の方を向いて目があった。
「そりゃそうだよ。一護くんのこと嫌いになれる人なんていないよ」
私は力強く、そう断言した。
(一護くんは優しくて、ちゃんと欲しい言葉をくれる…)
「でも、そういう好意的な態度が、生殺しになるってこと」
「………」
(生殺し…)
「期待しても無駄なのに。優妃はそんなつもりでなくても期待させちゃうの」
「………」
「まぁ、一護に彼女でも出来ればハナシは変わってくるかもだけど」
「彼女…」
「その為にはまず優妃のことは諦めてもらわないとね。それまでそっとしといてやって」
翠ちゃんは優しく笑った。
「……そっか。そうだね」
(一護くんに、彼女が出来たらー―――また友達になってもらえるのかな…)
「ちょっと…。なんでそこで泣くっ?」
「え…?あ…れ?」




