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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十二章【文化祭準備】
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「おまたせ、帰ろ優妃」


そんな声がしたと思ったら、翠ちゃんが私と一護くんの間に割って入り、私の腕を引いて歩き出した。


「み、翠ちゃん?」


呆気に取られながら、翠ちゃんに腕を引かれて教室を出る。

(一護くんに、バイバイも言ってなかったのに…)


腕を引かれながら教室を振り返った私に、翠ちゃんが前を向いたまま、言った。


「一護とは、しばらく話さない方がいいよ」


「え…なん「なんでも!」

畳み掛けるように、翠ちゃんが言う。


「翠ちゃん、それじゃ分からないよ―――どうして?」


「――――――一護、優妃のことが好きだから」


ドキッとした。――――聴きたかったような、聴きたくなかったような、そんな想いが複雑に絡まり合う。



「だから、一護があまりに可哀想。―――報われないのに」

(私…一護くんに可哀想なことした?)

無神経なことを言ってるとは思ってたけど、話すことすら“無神経だった”なんて…。


「その気がないなら、放っといてやって…」

翠ちゃんがつらそうに言った。

私にこんな話をすることも、一護くんが可哀想だというのも、友達の翠ちゃんとしては辛いんだろうなと察して、私は何も言えなかった。



「あ…」

靴箱のところで、偶然朝斗さんに会った。


「―――優妃、帰るの?」

「あ、はい…」

何となく顔を見れなくて…私は俯いて答えた。


「初めまして、早馬先輩。優妃と同じクラスの逢沢翠です」

そんな私を横目に、翠ちゃんが笑顔で朝斗さんに挨拶する。

(あ、そっか。そういえば翠ちゃんを紹介したことなかった…)


「どうも」

朝斗さんがいつもの王子様スマイルで応える。


「優妃は今から私と手芸屋に寄ってから帰ります」

翠ちゃんが、朝斗さんに言う。

「――――…いいですよね?」

「もちろん」

二人の間に少し間があった気がした。


遠くから「朝斗くーん」と呼んでいる声がして、朝斗さんはそちらに視線を向ける。


「行かなきゃ…。―――また連絡する。」

私に何か言いたそうにしていた朝斗さんは、私の頭をそっと撫でて、声をかけていた女の先輩のところへと駆けていく。

「…はい。」


(私…ズルいのかな…)

朝斗さんに会えたら嬉しくて、頭を撫でて貰えただけで幸せになれる。


(――――なのに、一護くんのことも気になるなんて…)

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