63
「どうして優妃が…紫のことを?」
明らかに怪訝な顔をして、朝斗さんが呟く。
その言葉に、私との間に一線引かれたような気がして苦しくなった。
「すみません聞いてしまったんです…。私、その人が…特別な人だって知らなくて…」
「は?特別?」
「花火大会の時、一緒にいた…美人さんです、よね…?」
変な汗が、手からじわりと出てくる。その手をぎゅっとテーブルの下で握る。
(聞いてしまった…聞いてしまった…私が気になってた紫さんの存在――――…)
「……――見たんだ?優妃」
コクンと頷くだけで、私は何も言えなかった。
胸の中がジリジリと痛む。
はぁ…、とため息をつかれて、私は次の言葉を聞く心構えをする。
「紫はただの従兄弟だよ。恋愛対象になることもない。」
(え…?)
「――――イトコ…」
あまりに拍子抜けして、私は馬鹿みたいに同じ言葉を呟いてしまう。
「―――でも私のこと知ったら、紫さんが黙ってないって…」
(先輩達が…っ)
「ったく…誰がそんなこと吹き込んだんだか…」
面倒臭そうに、朝斗さんがぼやく。
「まぁアイツは黙ってないかもな…俺を弄るのが生き甲斐みたいな奴だから」
「え?」
「俺を弟みたいに思ってるのか知らないけど。紫は昔からそういうやつなんだよ」
「――――好きとか、本命とか…じゃないんですか?」
「勘弁してよ。」
半べそをかいていた私に、朝斗さんが苦笑する。
(なんだ…―ー。違うんだ…)
ホッとしたら、身体中の力が抜けて、ソファーチェアーからズリズリと落ちそうになる。
「っていうか、優妃…それずっと気にしてた?」
朝斗さんが、私に嬉しそうに微笑んで訊ねる。
「………はい…。」
(なぜそんなに嬉しそうなんですか?私は本当に緊張して、大変だったのにっ!)
不服そうにそう返事をした私を見ながら、朝斗さんが呟いた。
「聞かれるのも、悪くないな」
「え?」
口元を頬杖をついた手が隠していたからか、私にはよく聞こえなかった。
「なんでもない」
朝斗さんはただ…誤魔化すようにそう言って、私のことを嬉しそうに見つめていた。




