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ファンクラブの先輩に呼び出されただなんて、告げ口みたいで、朝斗さんには言いたくなかった。
(けど、だからって…『お腹減りませんか?』なんて…っ)
―――色気の欠片もない。我ながらアホなこと言ったなと後悔する。
「で、どうした?何か用事?」
近くのファミレスで話をすることになり、向かい合わせに座る。
「あ…えっと、」
『彼女達とはもう連絡とってないんですか?』とか、『紫さんって特別な存在って聞きましたけど?』とか聞きたいことを何度も頭の中で決めていた筈だったのに、出てきた言葉は全く違うものだった。
「…暫くは一緒に登校はやめにしませんか?」
「―――誰かに何か、言われた?野々宮?」
私の一言で、さっきまで上機嫌だった朝斗さんの表情が曇る。
「え?いやいや違いますよ、私が恥ずかしくて…その…。あと少し、待ってて貰えませんか?」
「恥ずかしいって周りの目?それとも、」
少しムッとしたように、朝斗さんが言う。
「見られたくない“誰か”、いる?」
(ん?誰か?―――誰かって?)
朝斗さんの指す人物が分からなくて、私は首を傾ける。
「いません、よ?私はただ…―ー」
「ただ?」
「…朝斗さんの隣を、自信持って並んで歩けるようになってからがいいなって…」
私はテーブルに置かれていた水の入ったグラスに視線を落としながら答える。
(今はまだ…周りの評価に押し潰されそうだから…―――。)
「優妃…」
名前を呼ばれて、私はそっと朝斗さんの方に視線を上げる。朝斗さんは頬杖をついている手で口元を隠すようにしてこちらを見ていた。
「君は…それ…天然?」
「へ?」
間抜けな声が出てしまった私に、朝斗さんがクスリと笑う。
「優妃は今のままで充分可愛いよ?」
「っ!!!」
(なんですかそれ。その台詞っ!てかその表情ヤバすぎます!)
あまりの格好良さに、心臓が爆発したかと思った。
「でも…朝斗さんは…っ」
バクバクうるさい心臓と向き合いながらも、恥ずか死にそうになっていた私は、可愛気のない一言を発してしまった。
「大人の…綺麗目な女性が好きなんですよね?」




