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『ごめん、急に実行委員会のミーティング入った。今日は先に帰ってて』
放課後、朝斗さんからのlineが届いた。
(朝斗さん…。私は…朝斗さんの“彼女”ですよね?)
lineの文字を眺めて、私は心の中で呟く。
(だからせめて…重荷には…なりたくない。)
朝斗さんはいつだって優しい。私に優しく微笑んでくれる…。大切だって、思えるくらい優しく。
『優妃が他の男と話してるのも腹が立つし、優妃の口から他の男の名前が出るのも腹が立つ』
『みっともないほど俺は、優妃を独占していたいんだよ。覚えといて』
(―――あの言葉を…、朝斗さんを、信じて良いんですよね?)
「バカ。だから、あんたが出てくると余計にややこしくなるんだって」
「そうかもしんねーけど、でも…」
「あの子が付き合ってるのは“王子”でしょう?」
帰ろうと教室を出た私は、ふと廊下の片隅で翠ちゃんと一護くんが深刻そうに話をしている姿を見掛けた。
「…まぁ早馬先輩が先手を打ったんだろうけど」
「先手?」
「あぁ、」
翠ちゃんがなにやら天を仰いでいる。
(一体なんの話をしてるんだろう―――…)
「…―――あんたには酷な話よ。あの子が…自分の気持ちに気づく前に王子がさらっていったってこと」
「は?」
「だからもう、一護の出る幕じゃない」
何を話してるのかは全然聞こえなかったけれど、顔を近づけて話す二人の仲に入ってはいけない気がして、私は二人に声をかけることなく背を向ける。
(なんでこんなに…モヤモヤしてるの?二人は中学から一緒だったって、聞いていたじゃない。)
ぎゅっと締め付けられる胸をそっと押さえて、私は一人家へ帰った。




