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「優妃っ」
――――夏休みが終わり、新学期。
登校した私は、今朝からずっと視線を浴びていた。思い当たることは只一つ、私が朝斗さんと一緒に登校したことだ。
「早馬先輩と付き合ってるって本気なのっ?」
透子ちゃんが物凄い勢いで私の席にやって来る。
「………あ、ぅん…」
「えぇっ、やっぱり!いつからなのよ?」「きっかけは?」
透子ちゃんにつられるように透子ちゃんと仲の良い女友達二人が私の席を囲う。なんだかワイドショーみたいだ。
「どうやったんだろ…?」「香枝さんっておとなしそうな顔して、」
そんな透子ちゃん達仲良し三人組の後ろから、女子達のひそひそ話が聞こえてくる。
耳を塞ぎたくなるような、女子達の声。
こうなることは少なからず分かっていた。
あの、早馬朝斗先輩と付き合えるなんて、私だって思っていなかった。きっと今日初めて私達を見た女子達も、皆同じ気持ちだったのだろう。
「すごいじゃん優妃!あの早馬先輩と付き合えるなんて」
透子ちゃんが興奮気味に言う。
―――「一緒に登校しよう」と言われたとき、一応覚悟はしていた。だけどいざこの状況になると、『すごいじゃん』と言われても、優越感とかは全く無くて、むしろ自分では釣り合わないという視線が突き刺さって辛い。
(――――分かってたことじゃない。“釣り合ってない”ことは。)
朝斗さんに恋してるだけなのに、他の人の目が気になって、他の人の評価で傷付いてしまう。
(恋してるだけ、なのに…―ー―)
『あんなの好きになったせいで辛い思いばっかりして』
私の頭の中で一琉の声が再生される。何度も、何度も。
(違う。辛い思いなんてー―――してない…っ)
「はいはい、皆どいてー」
透子ちゃん達を押し退けるようにして、翠ちゃんが私に声をかけてくれた。
「優妃、顔貸しな」




