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「で、そんなとこで何してたんだ、琳護?」
朝斗さんがいつになく冷ややかな目を琳護先輩に向ける。
『俺の彼女だよ』
頭の中で、その台詞だけがリピートされている。
(あぁ―…やばい…―――キュン死にしそう)
「いや、俺は今、華子と来たところだったよ。優妃ちゃん見かけてちょうど声かけたところで」
な、優妃ちゃん?とこちらに視線を送ってくる琳護先輩に、ボケッとしていた私は慌てて話を合わせるために頷く。
「ふうん?」
腑に落ちない顔で朝斗さんが言う。
「ま、…どうでもいい。―――優妃、帰ろう?」
突然そう言われて、私は面喰らってしまう。
「――でも、朝斗さん…一護くんと…」
チラリと一護くんの方に視線を向けると、朝斗さんが私の手をとって歩き出した。
(ててててて、手!!!)
「あ、デートか?楽しんでー」
ヒラヒラと手を振る琳護先輩の隣で、黙って立ったままの一護くんがこちらをじっと見つめていた。
「ちょっと待って!!」
その場から居なくなろうとしかけた時、そんな声で私と朝斗さんの足は止められた。
「―――華子、ちょっと落ち着こうかぁ」
「落ち着いていられないわよっ?って、落ち着いてるわよ私は!」
よほど混乱しているのか、華子先輩はおかしな日本語を話していた。
「朝斗に彼女?どういうこと?朝斗は皆の朝斗であって、彼女なんて存在は許されない筈。でしょ?」
華子先輩が、私に詰め寄る。栗色の髪が風に靡くと、甘い素敵な薫りがした。
「一体貴女はどんな手を使って朝斗に取り入ったの?」
「私は…」
「あのさ、」
私を庇うように、朝斗さんが少し前に立った。
「何か勘違いしてないか?俺が、優妃に一目惚れして付き合うことになったんだよ」
いつもの王子様スマイルで、朝斗さんが華子先輩に説明してくれる。
「だから、取り入ったのは俺、なんだけど?」
「な…っ、そんな…」
「野々宮さん、優妃すごく大切だから仲良くしてやって?―――頼むよ」
「そ、それは勿論…」
かなり動揺している華子先輩は、完璧な王子様スマイルにやられて顔を赤くしている。
「そう。それは良かった。―――優妃行こっか」
「へ?」
実は私も朝斗さんの王子様スマイルにやられていたので、突然声をかけられて思わず間抜けな声が出てしまった。
「―――あの…っ、朝斗さん、…」
グイグイ手を引いて、朝斗さんが歩き出す。
「さっきの聞いてたの?…なら分かったよね?一護の気持ち…」
こちらを見ることなく、朝斗さんが言った。
(一護くんの気持ち…って、それは…)
「…え、あ…えっと…でも…」
「俺は、一護と優妃が話すの、見たくない」
「………」
私はどう答えたら良いのか、分からなくて黙っていた。
(朝斗さんのことは好き。でもそれだけじゃダメなんだ。―――一護くんと話すことも、朝斗さんは嫌がるのなら…。でも私は一護くんと話せなくなるのはつらい…。)
朝斗さんが足を止める。私の方を振り返り、真剣な目を向けてくる。
「それでも優妃は、一護と友達でいたい?」




