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「私、本当に彼女なんですか?それとも朝斗さんの“彼女達”の一人なんでしょうか?私、朝斗さんの周りにいつもいる“彼女達”みたいな魅力何一つ持ってませんけど、でも」
はぁ、と息をつく朝斗さんに、私は一回口を閉じた。
「………」
(その溜め息はどっちですか?もしかして、呆れてる?)
私は慌てて両手を振り、朝斗さんに早口で伝える。
「あ、全然いいんです!それでもいいんです!私、朝斗さんが私なんかに声かけてくれただけで充分、もう一生分の幸運使い果たしてたって自覚してます!ただ、図々しく間違ったりしないように…ちゃんと自分の立ち位置を知っておきたかっただけで」
(嘘。…嘘ばっかり。突き放されるのが怖いだけのくせに。―――…こんなこと言いながら泣きそうになってるくせに。)
俯いてバレないようにグッと口を結ぶ。そんな私の名前を、朝斗さんが優しく呼んだ。
「優妃、」
私の唇に朝斗さんが優しく人差し指で触れ、一言「待って」と言った。
まるで、「落ち着いて」とでも言うように優しく。
「…―――信じてもらえないだろうけど、優妃は俺の初めての“彼女”だよ」
朝斗さんが私の顔を見つめて言った。そして、はぁぁと長めのため息をつく。
「…優妃にそんなこと思わせてるなんて考えてなかった。今までがテキトーだったからな…女関係も、何もかも。」
ソファーに前屈みになった朝斗さんが片手で頭を押さえて項垂れる。そしてそのまま、ぽつりぽつり話してくれた。
「―――俺、学校で“王子様”とか“アイドル”とか言われて…なんだそれとか思ってたけど。そんな周りのことなんてどうでも良くて。むしろ周りにテキトーに合わせてた方が全て楽だったから…」
(朝斗さんのこんな表情…、初めて見る。)
話してみて、新しく知ることができた、朝斗さん。なんだかすごく近付けた気がして、嬉しかった。
「誰かの為に必死になることなんて、これからも絶対ないと思ってた。―――あの時、優妃が電車に飛び乗ってくるまで。」
「あの…それは…」
(本当に私が朝斗さんの“彼女”という認識でいいんでしょうか?良いって、思っちゃいますよ?)
全てを口にする前に、優しく私を見つめる朝斗さんと目が合ったら、そんなことを口にするのがバカらしくなった。
(私、朝斗さんと付き合ってるんだ…必要とされてるんだ…)
「あーでもフラれた時は、驚いたな。俺、告白したのも初めてだったけど断られることはまるで頭になかったから」
初対面の日の事を思い出したのか、朝斗さんが苦笑いを浮かべている。
「だって私なんかに…。からかわれてるのかと…」
私が赤面しながらしどろもどろに答えるのを、朝斗さんはなぜか微笑んで見ていた。




