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一琉の部屋から、逃げるように家に戻った私はすぐに自分の部屋へと駆け込んだ。
『優妃?どした?』
携帯電話から聞こえてくる、一護くんの声。自分からかけたくせに、彼の声を聞いたら私は何も言えなくなってしまった。
「………」
(どこから話せばいい?話しても、いい?)
ドアにもたれ掛かるようにして、一護くんの声を聞く。
『おい。もしかして…上手くいかなかったのか?誕生日』
「………」
『もしもし?優妃、返事くらいしろって』
(一護くん…困らない?しつこい…?)
「…ごめん。」
私は掠れた声でそれだけ呟くと、一方的に通話ボタンを切った。
一琉の存在から逃れたくて、一護くんに助けを求めるなんて、私はどうかしてる。私の男友達は、一護くんしかいない。―――だからって頼りすぎたらダメだ。絶対迷惑だ。
手元の携帯電話の着信が鳴り出してビクッとする。―――すぐにかけ直して来てくれた一護くんからの電話を、震える指で通話ボタンを押して出た。
『おい、いきなり切るなよ!』
怒っているような台詞なのに、一護くんの声は優しい。
「ごめん…」
『優妃、俺嬉しいからっ』
ぶっきらぼうな言い方で一護くんが言った。
「え?」
(…嬉しい?)
『電話くれただけで、嬉しい。だから何か言いたいことあったんなら、俺何でも聞くし、…てか聞きたいから』
「一護くん…」
照れたような口ぶりで一護くんが言った。私の胸が熱くなる。
(どうして…?)
『だから話せって、優妃の話』
(どうして一護くんは…―――)
唖然として、私は暫く何も言えないでいた。
(―――ここまで言ってくれる人、他にいる?私なんかの話を聞いてくれる人…。聞きたいなんて、言ってくれる人。)
一護くんは優しい。こうやって…優しい言葉でいつも私を助けてくれる…。
(一護くん…)




