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恋してるだけ   作者: 夢呂
第八章【誕生日】
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一琉が私を連れて入ったのは、私の家ではなくその向かいにある一琉の家だった。一琉は自分の部屋に入るなり呆れたように言った。


「…啖呵切ってたくせにね」

「………」


私は一琉の部屋に連れて来られたまま、黙って立ち尽くしていた。話す気力なんて無かった。私には構わずに一琉は椅子に腰掛け足を組み、続ける。


「自分が先輩を好きだから本気でなくても関係ないって言ってたよね?なのに、何?セックスされるかと思ったら怖じ気ついて帰ってきたわけ?」


「……ちが「違わないでしょ」


私の言葉は小さくて、一琉によって簡単にかき消された。


「これで分かった?あの男はそういう(● ● ● ●)(やつ)なんだよ。あれだけのハイスペックな男が、優妃に本気なわけないだろ?いい加減気付きなよ」


一琉の言葉なんかより、先輩を信じたかった。


だけど、先輩のことをよく知らない私は、「そんなことない」と反論することもできなかった。


『本気なわけないだろ?』

(そう…なの?)


でも、そう考えたら全てがすんなり納得出来た。

私なんかに声をかけたのは、『一目惚れ』なんかじゃなくて『ただの気まぐれ』で。

私が“特定の彼女”なんて嘘で本当は私も“彼女達”の一員だったのかもしれない。

先輩にとっては私は“遊びの相手”で、―――でもそれすら務まらないから帰らされた…?

そしたら私が帰ったあと、あの家には違う“彼女”が…―ー?


そこまで妄想していたら、胸が苦しくなった。


「優妃…、あんな(やつ)を想って泣くなよ…」

一琉が私を見て溜め息をつく。


「だって私は…先輩が、」

涙を拭いながら、嗚咽が漏れそうになって私は言葉を切る。一琉に見られるのが嫌で顔を覆うようにその場にしゃがみ込んだ。

(―――先輩が好きなんだもの…)


先輩が好き。例え先輩が私のことを好きでなくても。――――そう思っていた。


なのにあの時、どうして私は泣いてしまったんだろう。どうして心が“違う違う”と叫んだんだろう。


本当に好きなら、身体を許してもおかしくないはずでしょう?どうして?どうしてあの時、身体は拒んでしまったんだろう。


(自分の気持ちが…分からない…)


「優妃のは、恋じゃないよ?ただの憧れ。」

私を見下ろすように椅子の上から一琉がさらりと言った。


「セックスされそうになって、逃げてきたのがその証拠。自分が好きだからとかなんとか綺麗ごと言ってたけど結局いざそうなったら遊ばれんのは嫌だと思って逃げてきたわけだろ?」


(そう、なのかな…)

しゃがみ込んだまま、私は一琉の言葉に耳を傾けていた。


―――結局また、今までと同じ。


いつだって一琉の言うことが正しくて、私が何を言おうが結果は同じ。一琉が言うことは、私の本当の気持ちなんだと思えてきてしまう。私の意思は一琉の言う通りなんだと。



「優妃には僕がいる。僕だけは優妃の傍にいるから、…ずっと、ね」


一琉が私にそう言って優しく微笑む。いつもみたいに、言い聞かせるように。

だけど私の心はそれを受け付けたくないと拒絶反応を示してる。


(私は逃げられない?一琉とずっと一緒にいるべきなの?それが正しいの?)


そう絶望的になりかけたとき、ふと一護くんの顔が頭に浮かんだ。


『優妃、一琉(そいつ)と離れて正解だってこと』

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