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恋してるだけ   作者: 夢呂
第八章【誕生日】
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怒らせた…?幻滅された?

私が、ちゃんと応えなかったから?…身体の関係を、拒絶したから?


思い知らされた―――私は朝斗さんのことを、全然知らないんだと。


『優妃を喰べたいんだけど?』

『優妃のこと、メチャクチャにしてみたい』


朝斗さんが、なぜ突然あんなこと言ったのか、その本意が分からない。

(付き合ってるならそれが普通なの?色々頭で考えてしまう私がおかしいの?)


首筋に何か這うような感覚がフラッシュバックして、私は無意識に首を庇うように片手で覆う。

(分からない…)



『騙されてるんだよ、』

一琉の言葉が頭に浮かび、打ち消すように首を横に振る。

(違う…)


水族館でチケット代を払うと意地になった私に、お腹を抱えて笑ってた先輩も。

一琉と言い合いした後に、震える私を優しく抱き締めてくれて、『…ごめんな、怖かった?』―――そう優しく言葉をかけてくれた先輩も。


…あの瞬間は、騙されていたなんて微塵も疑わなかった。


『言ったでしょ?一目惚れだったって』驚いて赤面した私の反応(こと)を、楽しそうに覗き込んできた、今日の…あの瞬間(とき)だって。


私の中の、私の目に映っていた“朝斗さん”は、いつだって優しくて、余裕があって、大人で。



(――――私はどうして“彼女”になれたんだろう?)

なぜ私なんかが選ばれたんだろう。先輩の周りにいつもいる“彼女達”みたいに綺麗でもなければ色気の欠片すらない。女子力も、気遣いすら儘ならないような女が。

明らかに釣り合いのとれていない私なんかが。



「優妃、」

グルグルマイナスな渦に呑み込まれそうになった時、目の前に立っていた人が私の名前を呼んだ。

私は酷い表情(かお)をしてたと思う。涙で慣れないマスカラも取れてメイクもぐちゃぐちゃな顔。ゆっくりと顔を上げる前に、彼が私の手を引いた。


「一、琉…?」

「だから言ったのに。傷付くのは優妃だよって」


一琉がこちらを見ることなく、少し乱暴に私の手を引いてズンズン大股に歩く。ちらりと見えた横顔は、なんだか怒っているようだった。


「ほら帰るよ、優妃」


私は何も言えずにただ一琉に手を引かれるまま、重い足取りで少し後ろを歩いていた。


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