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恋してるだけ   作者: 夢呂
第八章【誕生日】
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後ろから抱き締められたままどうしたらいいのか分かない。

ただ分かるのは…いつも優しい先輩が怖くて、やっぱり何を考えているのか分からない。…―――分からないから怖く感じているのかもしれない。


「あ…あの…―――……」

そう声を出して初めて、自分が怯えていることに気が付いた。


「先輩、…私…―――」

「嫌?―――祝ってくれないの?」

言いかけた私に、先輩が言う。咎められているような、気がして身体が動かない。


「違っ…んっ、そ、そうじゃないです!」

首に何かが這うような感覚が走る。その途端、自分ではないようなうわずった声が漏れてショックを受けた。

(何、これ…―――なにっ!?)


「優妃のこと、メチャクチャにしてみたい」

「!?」


「朝斗さん…」

目に涙が込み上げてくる。瞳が潤んで視界が揺れた。


―――違う、違うと心が叫んでる。


「どうしてそんなこと言うんですか…?」


そう声に出したら涙がこぼれてしまった。堪えていたのに。


(こんなの、先輩じゃない。だって先輩は優しくて…いつだって大切にしてくれて…。)


涙が堰を切ったように次から次へと溢れだした。


「優妃って、涙まで綺麗なんだね…」


「…?」

何か呟いた先輩が、私の拘束を解いた。そしてすぐに優しく指で私の涙を拭ってくれた。


「――――どうかしてた、ごめん…」

そう言って、先輩が私から離れた。そしてその瞬間、私はホッとした…。


「もう、帰っていいよ」

ソファに座って顔を俯けたまま、先輩が言った。私は驚いて、言葉なく先輩を見た。でも先輩は私の方を向いてはくれなかった。


「…帰って。」

ただ、もう一言、さっきよりきつめの口調でそう言っただけだった。

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