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恋してるだけ   作者: 夢呂
第八章【誕生日】
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言われた駅で降りると、すぐに朝斗さんを見つけることができた。行き交う人達の視線が、一度は朝斗さんに向けられているからだと思う。


「優妃、迷わず来れた?」


先輩に会うと、先輩の声を聞くと、自然と私の体温と心拍数が上がる。

――――あぁ、好きだなって気持ちで胸がいっぱいになる。



「…はい。でも私、反対(こっち)方面乗ったことなかったから緊張しました」


目を合わせるのがいまだに恥ずかしくて、俯いたままの私に、先輩が悪戯な笑顔を浮かべて言った。

「それは嘘。」


「え、」

思わずキョトンとしてしまう。


「乗ったことは、ある(● ●)でしょ?」

「???」


理解できない私は必死に、先輩と一緒に乗った電車について思い起こす。

だけどこないだの、水族館に行った時もこの路線じゃなかったはず。


(うーん…なぜ先輩が私の記憶にないことをそんな風に言い切れるんだろ?)


「子供の靴を持って駆け込み乗車」

首を傾げていた私を見て、先輩がヒントみたいな言葉を口にした。


「………」

(子供の靴を持って駆け込み乗車…?)

私は先輩の言葉を心の中で復唱した。そこでやっと、先輩が云わんとしていたことに気が付いた。


「……あ!―――あぁ…のっ?!」

あの時、目が合った先輩は、早馬先輩だったのか!

今さら気付いて私は赤面する。

(あの時…み、見られてたんだ…)


「言ったでしょ?一目惚れだったって」

そんな私の反応を、楽しそうに先輩が顔を覗き込んでくる。


(一目惚れって、あの時…?え、なんで?どういうこと?)


かぁぁっと顔の体温が上がる。

見られていただけじゃなくて、まさかそれが私に告白してくれたきっかけだったなんて。



「駆け込み乗車したから、降りれなかったんだよね?次の駅で降りてたろ?」


「だって、必死で…」

見られていたのと笑われたのが恥ずかしくて、私は言い訳しようと口を尖らせる。


「あぁ、笑ってごめん。誤解しないで。―――他人の為にそこまでするの、凄いなぁって見てたんだよ」

先輩の大きな手が、私の頭を撫でる。まるで機嫌を取るように優しく。


「俺には出来ないから」


「せ…先輩だって、目の前で靴を落とされたらきっと追い掛けてますよ!」

私は顔を上げる事が出来ずに、赤面したまま俯いて言う。


「先輩は、優しいですから!」


先輩はいつだって完璧で、皆の憧れで、優しくて紳士的で。

―――だから“出来ない事”なんて何もなくて。


(それなのに、そんな風に謙遜するんですね)


「…サンキュ」

なぜそこでお礼を言われたのか、私にはよく分からなかった。

俯いていたから、先輩の表情にも、気付かなかった…。

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