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言われた駅で降りると、すぐに朝斗さんを見つけることができた。行き交う人達の視線が、一度は朝斗さんに向けられているからだと思う。
「優妃、迷わず来れた?」
先輩に会うと、先輩の声を聞くと、自然と私の体温と心拍数が上がる。
――――あぁ、好きだなって気持ちで胸がいっぱいになる。
「…はい。でも私、反対方面乗ったことなかったから緊張しました」
目を合わせるのがいまだに恥ずかしくて、俯いたままの私に、先輩が悪戯な笑顔を浮かべて言った。
「それは嘘。」
「え、」
思わずキョトンとしてしまう。
「乗ったことは、あるでしょ?」
「???」
理解できない私は必死に、先輩と一緒に乗った電車について思い起こす。
だけどこないだの、水族館に行った時もこの路線じゃなかったはず。
(うーん…なぜ先輩が私の記憶にないことをそんな風に言い切れるんだろ?)
「子供の靴を持って駆け込み乗車」
首を傾げていた私を見て、先輩がヒントみたいな言葉を口にした。
「………」
(子供の靴を持って駆け込み乗車…?)
私は先輩の言葉を心の中で復唱した。そこでやっと、先輩が云わんとしていたことに気が付いた。
「……あ!―――あぁ…のっ?!」
あの時、目が合った先輩は、早馬先輩だったのか!
今さら気付いて私は赤面する。
(あの時…み、見られてたんだ…)
「言ったでしょ?一目惚れだったって」
そんな私の反応を、楽しそうに先輩が顔を覗き込んでくる。
(一目惚れって、あの時…?え、なんで?どういうこと?)
かぁぁっと顔の体温が上がる。
見られていただけじゃなくて、まさかそれが私に告白してくれたきっかけだったなんて。
「駆け込み乗車したから、降りれなかったんだよね?次の駅で降りてたろ?」
「だって、必死で…」
見られていたのと笑われたのが恥ずかしくて、私は言い訳しようと口を尖らせる。
「あぁ、笑ってごめん。誤解しないで。―――他人の為にそこまでするの、凄いなぁって見てたんだよ」
先輩の大きな手が、私の頭を撫でる。まるで機嫌を取るように優しく。
「俺には出来ないから」
「せ…先輩だって、目の前で靴を落とされたらきっと追い掛けてますよ!」
私は顔を上げる事が出来ずに、赤面したまま俯いて言う。
「先輩は、優しいですから!」
先輩はいつだって完璧で、皆の憧れで、優しくて紳士的で。
―――だから“出来ない事”なんて何もなくて。
(それなのに、そんな風に謙遜するんですね)
「…サンキュ」
なぜそこでお礼を言われたのか、私にはよく分からなかった。
俯いていたから、先輩の表情にも、気付かなかった…。




