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恋してるだけ   作者: 夢呂
第八章【誕生日】
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『いや、それは行かねーよ』

勇気を出して、一護くんに電話したというのに無情にも即、断られた。


「え、でもたくさんの方が絶対楽しいと思うんだけど…」


『だとしても、』

私の言葉を遮るような強い口調だった。

私は一旦黙って一護くんの話に耳を傾けた。


朝斗(アイツ)がそれを望んでねーだろ』


「一護くん、どうして言い切れるの?」

少しムッとしてしまう。自分より一護くんの方が朝斗さんのことをよく分かっているのが悔しかった。


『いや、それ…普通は分かるだろ』


「え、」

(分かるの?普通は?)

呆気に取られていると、一護くんが溜め息混じりに言った。


『とにかく、誰も誘うな!一人で祝ってやれ』



「…分かった、なんかごめんね」

一護くんに力なくそう言って、通話を終了する。

(とは、言ったものの…)


私が一人でお祝いして、朝斗さんは喜ぶんだろうか…。だいたい友達の誕生日会も、参加したことない私が祝っても、良いんだろうか…。


(どうしよう、急に不安になってきた…)


とりあえず無難にケーキを作ろうかと、家にあったお菓子のレシピ本を見てみる。


(チョコレートケーキ、チーズケーキ、ショートケーキ…)

そういえば先輩はケーキとか食べるんだろうか?もしかして甘いの苦手だったら…。


「本当に…、何も知らないんだなぁ…」

寂しくなって口から弱気な言葉が出てしまう。


元々お菓子作りは得意でもないし時間もないから作るのはやめて、少し遠くの、有名なケーキ屋さんで買っていくことにした。


(お子様で、女子力も低い私…)


「あら、出掛けるの?」

玄関で、母親に声をかけられる。


「あ、うん。えっと…先輩の誕生日会で」

(先輩っていうのは本当だけど、彼氏とは言えない私…嘘つきだ)

“彼氏”という単語を母親に言うのはなんだか恥ずかしくて咄嗟にそう言ってしまった。



「そう。じゃあ今日遅くなるの?一琉くんも一緒?」


「遅くはならないし、高校の先輩だから一琉は関係ないよ」

一琉の名前が出てきて、私はうんざりしながら答える。うちの母親は、一琉を気に入りすぎていると思う。


「へぇ…珍しいわね、一琉くんが一緒じゃないなんて」

意外だという顔をして、母親な呟く。


「高校が別々になっちゃったからなのかしら。優妃もだんだん一琉くん離れしていくのね」


「何それ。…行ってきます」


私は一琉の話をこれ以上されたくなくて足早に玄関を出た。


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