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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二章【花火大会】
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「香枝?」


翠ちゃんの家に向かう途中で、声をかけられた気がして私は振り返った。


時田(ときた)くん…」

時田(ときた)一護(いちご)くんは、同じクラスの男子。

数奇透子ちゃんと仲が良く、クラスの中心的な存在で、彼の周りには目立つ仲間が常にいた。


だからと言うわけではないけれど、私は彼が苦手だ。


「え、もしかして。香枝、今から花火大会?」


私が浴衣を着ていたのがよほど意外だったからか、時田くんが上から下までじろじろと見ながら言った。


「あ、…うん。」

浴衣姿を見られて、私は何となく気まずくなってうつ向く。


「じゃあ一緒に行こうぜ?俺も今日行くから」


「えっ?」

時田くんがさらっと言った台詞(ことば)に、私は驚いて聞き返す。


「そんな固まんなよ」

苦笑いで時田くんが私の顔を覗きこむ。


(ち、近いです…っ!)



「私、あの…っ。翠ちゃんと約束してて…だから…」

たどたどしくなってしまったが、何とか分かって貰おうと話を切り出すと、同時に私の携帯電話が鳴った。


『あ、優妃!?』

――――翠ちゃんからだった。


「翠ちゃん、どうしたの?ちょうど今ー―――」

向かっているところだよ、と言おうとした私に、翠ちゃんはかぶせるように話し出した。


『ごめん、今日行けなくなっちゃった。透子と皆で楽しんできて!』


翠ちゃんはそれだけ言うと早々に電話の通話終了ボタンを押したらしく、私の耳にはツー…ツー…の機械音だけが聴こえてくる。



(みどり)、何だって?」

隣を歩いていた時田くんが聞いてきて、私は我に返る。


「翠ちゃん、来れなくなったって…」


仲良しの翠ちゃんが来れなくなったと知り、私は心細さから声がさっきよりも小さくなる。


「マジかー。残念だったな、香枝。」

時田くんが同情するように、また苦笑いで私を見る。

私はたいして仲良くもない時田くんに慰められても、むなしさが増すだけだった。


「ぅん…」

目線を落として、トボトボ歩きながら小さく返事をする。


「そんな表情(かお)すんなよ!俺が一緒に行ってやるから!」


笑い飛ばすような勢いで時田くんが言った。


(え…?時田くんが?)

一緒に行くって…“花火大会”に?

私と…?


混乱している私に、時田くんが悪戯に笑うと言った。


「透子と待ち合わせだろ?俺も一緒に行く予定だったし!って、あれ?―――香枝、顔赤いけど何考えてた?」



「な、何も!」


私は時田くんに見透かされている気がして恥ずかしさが増す。

顔に熱が集まってくるように、熱い。


(一緒に行くって言われたら、二人きりだと思うじゃない!?普通!)


からかわれていたんだと知って、私は早足で歩く。


(やっぱり苦手だ…この人…)


履き慣れない下駄が、辛く感じた。

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