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「それって単に照れてただけじゃない?」
私がお土産に買ってきたシャープペンをまじまじと手に取り見つめながら、翠ちゃんが言った。
「へ?照れ…?」
翠ちゃんは勉強机のところにある椅子に座っているが、私はサイドテーブルに正座して座っていた。なので必然と翠ちゃんを見上げるようなカタチで話を聞く。なんだか翠ちゃんのありがたいお話を聞いているようなそんな感じ。
「誕生日聞かれたら、誕生日に指定してデート誘ったことがバレるから恥ずかしかったんじゃないの?」
「そう…かな…」
そうなら良いんだけど、私は確信が持てないから曖昧に頷く。
「へぇ、あんな完璧な王子様みたいな先輩も、可愛いとこあんじゃん」
翠ちゃんがクスッと笑う。
「か、可愛い…?」
「まぁまぁ。良いじゃん優妃、楽しかったんでしょ?ならそんな些細なことに悩んでたって勿体無いだけだぞ?」
翠ちゃんが明るくそう言って椅子から降りると、私の前に座り直す。
「勿体無い?」
「そうだよ楽しまなきゃ、あんたは今世の中の女の子に羨ましがられる存在なんだからさ」
翠ちゃんは悪戯っ子みたいな笑顔を向ける。
「あ、そうだ…、そのことなんだけど」
私はふと、こないだから言おうと思っていたことを思い出す。
「私がその…朝斗さんと付き合っているのは…誰にも言わないで欲しくて…」
「言うわけないじゃん」
遠慮がちにお願いする私に、翠ちゃんが被せるように素早く返してきた。
「!?」
「もちろん言わないよ、危険すぎるもの」
「き、危険…って」
翠ちゃんが言うとなんだかリアルで…私は怖くなって恐る恐る訊ねる。
「バレたら先輩の周りの“彼女達”が黙ってないわよ。」
怖い。やっぱりそうなんだ。先輩には不特定多数の彼女がいて、皆抜け駆けは許されないのだ。
「優妃は、それでも早馬先輩の彼女でいたいんでしょ?」
沈んでいる私に、翠ちゃんが真顔で聞いてきた。
「…私はー―――」
(私はただ、先輩が好きなだけ。それはこんなにも…色んな感情を抱かせるものなの?)




