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恋してるだけ   作者: 夢呂
【番外編】ホワイトデー
313/315

【前半:朝斗視点】4【後半:優妃視点】

「お前、パスとか回せたんだな。」

「は?」

試合後、ユニフォームで汗を拭いながら戌賀瀬が笑った。


「昔はワンマンだったろ?お前のチーム、お前一人で点数入れてたじゃん」

「・・・」

中学時代の話をされても、あまり記憶がない。

あの時の俺は、無難にこなせれば何でもよかったのだから。

まぁ、違う中学で俺の中学とたびたび試合をしていたこいつが言うのだからそうだったのかもしれない。


「変わったんだな、お前」

爽やかに笑って、戌賀瀬が俺の背中をバンと叩いた。


(―――――“変わった”―――――)


そう言われると、むず痒い。


確かに中学の時は周りにパスをすることは少なかった。自然と俺にパスが回ってきて、回ってきたらそのままドリブルに持ち込みシュートする。それが俺のやり方だった。

でも今日は周りがみえていた。シュートと見せかけて空いているところにパスを回すと、一人の時よりスムーズに得点が増えていった。


中学の時は誰も信用していなかった。だからパスをもらっても、それを他に回すなんてしたことがなかった。


だから今日、“変わった”と言われて…内心嬉しかったのだ。


「―――それより、約束(● ●)だからな。」

わざとそう無愛想に言うと、戌賀瀬がニヤリと口元を歪ませる。


「分かってるよ、“彼女”には近付かない。つうか、アレ嘘だし」

「は?」

(―――嘘?)


「“俺がシュート得点数でお前に勝ったら香枝さんに告白させてもらう”って、あれマジで信じてたのかよ?」

「・・・優妃に近付こうとされるのは、我慢できねーんだよ」


「お前相手に、立ち向かおうとする奴なんていねーよバーカ。」


親しくないやつに、“バカ”と言われたのは初めてだった。なぜだか嫌な気はしない。


「つうかさ、プレーも変わったけど…―――俺は中学の頃のすかしてたお前より、今のお前の方がつるみやすいわ」

豪快に笑って、戌賀瀬は控え室へ向かう。


「また一緒にバスケやろうぜ、早馬。」






―――――――――――――――






「いやぁ香枝のおかげで、今日の試合勝てたわ」


会場の出入口で朝斗さんを待っていると高梨先生が声をかけてきてくれた。


「え?私ですか?」


(応援と言うほど声も出してなかったんですけど…。というか、私、ただ見惚れてただけだったような…)


「早馬、貸してくれてありがとな!」

爽やかにニコッと笑って、高梨先生が言う。


(えっ!?)

そんな言い方…なんか、恥ずかしいですっ!


赤くなっている私に、高梨先生が言った。

「じゃあな香枝。みーちゃんは俺が送ってくから。」

「は?な、なんでそうなんの?」

突然のことに、翠ちゃんが驚きの声をあげる。


「邪魔しちゃ悪いだろ?今日、ホワイトデーだし」

先生が翠ちゃんの耳元で何か囁くと、暫く悔しそうに唇をぎゅっと結んでいた翠ちゃんが私の方を向いて言った。


「…ごめん、優妃。また明日学校でね」

「うん!」

なんだかんだ口喧嘩しながら、二人は先に帰っていった。

(なんか…カップルみたい…)


そんなこと言ったら、翠ちゃん怒るんだろうな。

だから言わないでおこう。





「―――優妃、待たせてごめんな」

二人を見送っていると、後ろから声がした。

私は振り返るとすぐに試合の感想を伝える。


「朝斗さん!お疲れ様です!すごくすごくカッコ良かったです!!朝斗さんて、バスケやってたんですね!」

この感動をすぐに伝えたくて。

つい勢いあまって、距離をつめすぎてしまった。


朝斗さんが、少し驚いたように目を見開いている。


「ああ、中学でバスケやってたからな」

「そうなんですねぇ!あの華麗なプレー、惚れ惚れしました!私もあんなふうに動けたらって」


「優妃のバスケ姿?」

そう言うと、朝斗さんがふはっと噴き出して笑う。


「な、なんですか!」

「いや?可愛いだろうなぁと思って」

「かっ、」

(“可愛い”って何ですか!?バカにしてますよね?)

そう思いながらも、朝斗さんにそう言われると過剰に反応して顔が赤くなる。


「じゃあ、行こうか」

そんな私の反応を楽しむように微笑んで、朝斗さんが手を取り、繋ぐ。


「優妃を連れていきたいところがあるから」


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